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act.6影踏スクランブル<61>
クラスメイトが集まる人工芝のグラウンドは太陽の光を反射して眩しいほど青々と光っている。瞳の色が薄いせいで、そうした光を直視することも葵にとっては苦手だった。
大人しく木陰に引っ込みながら、葵は芝の上を楽しそうに走り回るクラスメイト達を目で追う。一際目立つのは、体育が唯一好きな授業だと豪語する七瀬。小さな体ながらすばしっこく、ボールを転がす足捌きは軽やかだ。いつもはその近くに気だるげな都古の姿があるのに。そう考えてしまうだけでまた切ない気持ちにさせられた。
気を抜くとどうしても沈んでしまう気持ちを払拭するように葵は抱えていたボールを地面に置き、グラウンドを区切るコンクリート塀に向かって蹴り出した。弾みながらも案外真っ直ぐに進んでくれたボールは跳ね返って葵の元へと帰ってきてくれる。このぐらいの運動ならば体に差し障りはない。葵は時折グラウンドに視線を投げながら、一人パス練習に勤しむことにした。だがボールを蹴りながらも、葵の頭の中は相変わらず都古や京介のことで一杯になっている。
“都古のことはしばらく忘れろよ”
朝食堂で強引に忍と別れた後、京介は真っ直ぐに教室には向かわず葵を校舎裏の非常階段へと連れ出した。人気のないその場所で当たり前のようにキスを落とされて、そう言われたのだ。
都古に会いに行くことも改めて止められたし、葵が他の部屋に泊まることもきつく禁じられた。忍に誘われたことが良くなかったらしい。それに都古がいない間、昨夜のような行為を続けようとする京介から逃れたいと思う葵の本心も見透かしているようだった。
心細い思いをしているであろう都古が心配で堪らないけれど、どこか切羽詰まった様子の京介の願いを無下にすることも葵には出来ない。ただでさえ整理が追いつかずぐちゃぐちゃになっていた心を思い切りかき乱されて、もうどうしたら良いのかちっとも分からなかった。
「……あっ」
モヤを払うように少し強めに蹴ったボールは正面ではなく、コロコロとおかしな方向に転がっていく。慌てて追いかけていくけれど、一歩及ばず茂みの奥にすっかりと姿を隠してしまった。
「届くかな」
茂みの手前にしゃがみこみ、懸命に手を伸ばしてみるけれど指の先がツンとボールに当って余計に奥へと押し込んでしまう。しばらく夢中になって同じ動作を繰り返してみるが、やはりどうにも上手くいかない。葵よりもずっと身長が高く、腕も長い熊谷に助けを求めてみようか。葵がそう考えて一度立ち上がろうとした時、不意に背後から影が差した。
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