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act.6影踏スクランブル<64>

生い茂る植物を掻き分けて声のするほうへと近づけば、やはりそこにはガラス越しに射し込む太陽の光を浴びて金色の髪を輝かせる葵の姿があった。濃い青色のジャージを身に付けているのだから、体育の授業中だったのだろう。 「……藤沢ちゃん、どったの?」 苦しげに胸を押さえて荒い呼吸を繰り返す葵を見て見ぬ振りなど幸樹には出来なかった。極力いつも通りの声で呼びかけると、葵は気の毒なくらい大きく体を震わせて丸い目を向けてきた。 「うえの、せんぱい」 まるでおばけにでも遭遇したような表情だったが、葵はすぐにくしゃりと顔を歪ませぽろぽろと涙をこぼし始める。戸惑う幸樹を求めるように両手を伸ばしてくるのだから堪らない。誘われるまま彼を抱き締めてやると、夢中になってしがみついてきた。 薄い体は荒い呼吸に合わせて震え、じんわりと熱を放っている。彼がここに来た理由を尋ねたかったがまずは落ち着かせることが先決だろう。包み込むように抱き締め、繰り返し背中をさすってやると少しずつ鼓動がおさまっていくのが分かる。 「授業戻る?それとも保健室行く?京介呼ぶ?」 葵にとって何が最善の選択肢なのか分からず、幸樹はとりあえず葵に提案し続けてみるが、葵はいずれも首を横に振って拒絶する。 「上野先輩は?どこか行っちゃいますか?」 言葉とともに幸樹のシャツを掴む手に力が込められる。泣きながらこんな事を言われたら離れるなんて言えるわけがない。 本音ではこのまま葵の傍にいることが不安だった。歓迎会のことを引きずる気まずさもあるが、何より久々に間近で見て触れる葵の姿は幸樹にとってはあまりにも刺激が強すぎた。でも求められているものを面と向かって跳ね除ける勇気もない。 「行かへんよ、大丈夫。安心しい」 幸樹がそう絞り出せば、葵はホッとしたように熱い体を凭れかけてきた。 葵の体を抱えて元いたベンチへと運んでやっても尚、葵は幸樹から離れようとしない。それどころか外よりも気温の高い温室を暑いと言って、羽織っていたジャージを脱ぎだしてしまう。中に着ていた白い体操着が汗ばむ体にぴったりと張り付いているのも目に毒である。 「藤沢ちゃん、もっかい聞くけど……何があったん?体育の授業中やろ?」 幸樹は頭に浮かぶ邪な思いを打ち払うように、いくらか落ち着いてきた様子の葵へと改めて問い掛けた。今度は葵もがむしゃらに拒むのではなく、返答に困った顔をしてみせる。

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