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act.6影踏スクランブル<65>
「見学してたら具合悪くなっちゃって。それで保健室、行こうと思ったんですけど……でも途中で苦しくなっちゃって」
「なんで走ったん?具合悪いのに走ったら辛くなるに決まってるやん」
ちぐはぐな言い分は葵が何かを誤魔化そうとしていることを示していた。だがすぐに切り返すと葵はますます困ったように俯いてしまう。
「上野先輩に会えたから、もう大丈夫です」
「……ずるいな。そんなん言われたら何も言われへんやん」
そもそも葵に対する後ろめたさがある状態では幸樹も強く聞き出すことは憚られた。諦めたことを伝えるように葵の頭を撫でてやれば、再び甘えるように体が倒れてきた。
「ずっと会いたかったんです。ちゃんと謝りたくて」
「謝るのは俺のほうや」
あの夜のことにどうやって落とし所を見つけたらいいか、手探りの状態なのはお互い同じだったらしい。
幸樹が葵を不用意に傷付けたことを詫びれば、葵は自分でも上手く説明が出来ないと前置きをしながらも、過去の記憶を蘇らせて湖に飛び込んでしまったこと、そしてそれは決して幸樹のせいではないことを告げてくれた。
「もうあんなことしたらアカンよ」
きっかけを作った幸樹が言うのもおこがましいとは思ったが、言わずにはいられなかった。だが力強く頷いてほしかった幸樹の気持ちとは裏腹に、葵は複雑そうに顔を歪めて目を伏せてしまう。
悪いことをしたという自覚はあるのだろう。それに心に刻まれた傷に立ち向かう覚悟も決めたという。しかし二度としないと言い切れるほどの自信はないように思えた。
「藤沢ちゃん、あのな。考えるのってほんまはむちゃくちゃ苦手やねんけど……」
葵に再び会えたら何と声を掛けようかずっと悩んでいた。
「藤沢ちゃんが望んだとしても、目の前でまた同じこと起こったら絶対に助ける。何度でも助ける。それで藤沢ちゃんに恨まれてもええ」
葵に対しての罪悪感だけが顔を合わせにくかった理由ではなかった。例えパニックを起こした結果であっても、葵が一瞬でも死を望んで行動を起こしたことには違いない。それを引き止めてしまったことへの責任の取り方を模索していたのだ。
あのまま沈みたかったと、冷静になっても尚葵が願っている可能性があるのではないか。幸樹が内に秘め続けていた本音だった。
「その代わりな、藤沢ちゃんがその後の人生で幸せに思えること一つでも多く増やしたい。それが俺なりのけじめの付け方やなって」
葵は幸樹の言葉に驚いた様子を見せた。無理もないだろう。プロポーズのような台詞をすんなり受け入れられても逆に困ってしまう。葵に何かを押し付けたいわけではない。幸樹自身の気の持ちようの話だ。
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