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act.6影踏スクランブル<66>
「せやから……傍におってもええ?」
細い腰を引き寄せてジッと瞳を見つめれば、葵は戸惑いながらもコクリと頷いてくれる。
「避けられてるのかと、思ってました」
「……いや、それはすまん。藤沢ちゃんのこと怖がらせちゃうかもってビビっててん」
避けていたのは事実。不可抗力でこうして出会ってしまったから決心がついただけで、遠くから見守るだけでも十分だと思っていた。
「怖がるってどうしてですか?」
「俺の顔見て嫌なこと思い出させちゃったら可哀想やなって」
「会えないほうが怖かったです」
葵はそう言って少しむくれたような顔で幸樹のシャツを掴んでくる。葵を悲しませたことは申し訳ないと思うものの、それほど求められていたと実感して嬉しいと感じてしまうのは否めない。
「藤沢ちゃん、今めっちゃチューしたい」
「え、な……えっと」
「アカン?したいねん」
喜びに身を任せて素直な願望を口にすれば、途端に葵の頬に朱が差した。葵の周囲にいる者は許可など取らずに好き勝手してくるのだろう。いいとも嫌とも言えず、葵は困ったように幸樹を見上げてくる。その表情も幸樹を煽って仕方ない。
「チューしよ」
更にきつく腰を抱いてもう一度迫れば、葵は恥ずかしそうに瞼を伏せてくれた。
幸樹とは随分体格差があるし、こうした遊びに慣れている相手ではない。葵が苦しさを覚えないよう最大限配慮しながらゆっくりと唇を重ねていく。何度も角度を変えて啄むだけのキスにとどめようとするが、気を抜けばがっついてしまいそうだ。
「藤沢ちゃん、あの日こんな風にチューしたの覚えてる?忘れちゃった?」
キスの合間に尋ねれば、葵は赤い顔をして”おぼえてる”、そう答えてくれた。それが堪らなく愛しい。
「で、も……こんないっぱい、してない」
「せやな。本当はもっとしたいってゆったら怒る?」
絶え間なくチュッと口付けながら素直な願望を口にすると、葵は自分の唇を噛んで潤んだ目を向けてきた。
「……どないしよ。我慢できひんなこれ」
舌を絡ませもしない子供のキスですら、とろんとした目をされると葵相手には紳士でいなければという妙なプライドもどうでも良くなってきてしまう。頭の中で奈央や京介が怒る顔が浮かぶが、葵との再会記念にもう少し楽しんでもバチは当たらないと勝手に解釈しておくことにした。
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