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act.6影踏スクランブル<67>

「藤沢ちゃん、お風呂でイチャイチャしたのも覚えてる?」 「……洗ってもらったのは」 「ん、覚えてるな。ええ子」 いきなり触れるのはさすがに警戒されるし、下手したらせっかく懐いてくれた葵に嫌われかねない。葵の許容範囲を確かめるために肌に触れた時のことを口にすれば、葵はあの行為を純粋なものと捉えている様子を見せた。 「泡付けてもベタベタしてんのなかなか落ちなかったな?」 気恥ずかしそうな葵の表情をもっと見たくて、あえて意地悪な物言いをし、再現するようにハーフパンツ越しに腰から尻にかけて撫でると更にきつく幸樹に抱きついてくる。あの時は直接触れた滑らかな肌はジャージ素材の布に阻まれているものの、小ぶりなくせにふにふにと柔らかな感触が伝わってきた。 「上野先輩はあの、ピンクのやつ……」 「ん?ローション?癖になっちゃった?」 保険医が悪ふざけで葵に掛けたのは色味が毒々しいだけで、ごく一般的なもの。気に入ったのなら準備しておこうと気軽に受け答えた幸樹の気をよそに、葵は複雑そうな顔をしてみせた。 「あれってお薬、なんですよね?京ちゃんも持ってたから不思議で」 そういえば葵はあれを薬と騙されていたのだった。本人から申告されて初めて幸樹はそれを思い出すが、その後に続いた言葉のほうが聞き捨てならない。 「京介が持ってた?使われたん?」 葵に最後まで手を出しきれない臆病な一面がある友人だが、いよいよ葵を抱く準備を始めたのか。それとももう抱いてしまったのか。幸樹の中で異様な焦りが湧き上がる。 「ちょっとだけ。でも頭痛くないから要らないって言ったんです」 「うーん……それ、京介はちゃんと説明してくれんかったん?」 葵の回答が拍子抜けするもので、幸樹は一気に脱力してしまう。やはり彼はここぞという意気地の無さが問題だ。 「京ちゃんは薬じゃないから大丈夫って言うけど、先生は薬って言ってたから分からなくて。上野先輩、どっちが本当か知ってますか?」 「それ俺が教えるん?責任重大やん」 きらきらした目で見つめられても困るものは困る。どうして幸樹が葵にローションの使い方を教える役目を任命されなくてはならないのか。 「そんなん言うたらとことん使い方教えんで。ええの?」 「え、あ……はい」 「こら、それはダメって言わなアカンとこ。ほんまに食うで、この子はもう」 全くもって無防備な葵を叱るようにキスを仕掛けても、頬を染めるだけでちっとも反省の色が見えない。遊び慣れた相手と行為に及ぶのは得意だけれど、ここまで無垢な相手にどうやって手を出して良いのかさっぱり分からない。京介が今まで抱けなかった理由も何となく実感させられる。

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