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act.6影踏スクランブル<68>

「京介は?ぬるぬるのやつどこに塗ってきたん?」 腕の中で赤くなる小さな存在をもう少しだけ苛めたくなって投げかけた問いには、初めて葵が口を噤んだ。言いにくい場所に触れられたのは見当がつくが、あえて葵に言わせたい。 「教えて?せやないと、説明できひんよ」 俯く葵にキスをするのは諦めて、幸樹は向かい合うように膝の上に座る葵の体を抱き直した。汗ばんだ首筋におまけのように数度口付ければ、葵からは控えめに”おしり”とだけ呟かれる。 「悪いお兄さんに食べられんで、んなかわええこと言ってたら」 その”悪いお兄さん”は他でもなく幸樹自身なのだが、今は棚に上げておく。真っ赤に震えて絞り出した答えがウブすぎてむくむくと加虐心ばかりが増していった。 「んッ…触るの、ダメ」 「なんで?京介にはぬるぬるでここ弄られたんやろ?それにお兄さんも前お風呂でここ綺麗にしたやん」 葵が口にした箇所をハーフパンツ越しにツンと突けば途端に苦情が寄せられる。だが、幸樹がすぐに言い返せば葵はやはり眉をへたらせるばかり。 「藤沢ちゃん、あれはな橘がからかっただけ。正解は、気持ちいいことする時に使うやつ、な」 保険医が説明した”頭痛薬”が嘘だと教えてやり、代わりに随分と抽象的にローションを表現してやると、葵は更に困った顔になった。恐らく、結局京介が何の目的でそれを使ったのか理解できていないのだろう。 「指でクチュクチュされた?気持ちよかったやろ?」 耳元で囁やけば葵は否定するように必死に首を横に振ってきた。幸樹が布越しに突く場所を触れられて気持ちいいとは言いにくいだろう。 それならば、と幸樹は新たな悪戯を思いついた。 「ほな、気持ちいいってこと教えたるわ。京介よりお兄さんのほうが上手いで絶対」 葵以外に全く興味を示さない京介とは違い、年不相応なほどの経験は積んできたつもりだ。初めての子に手を出すのはどうも気が引けてきたが、葵相手なら別だ。むしろ開拓する喜びのほうが勝る。 「もう授業終わりそうだから……」 「だーめ。今更逃げようなんて許さんで。せっかく久々に会えたんやし、もっと仲良くしよな?」 幸樹の胸を押し返そうとする葵を説得すれば、”仲良く”というワードが響いたのか途端に力が抜ける。こんなに簡単に絆されるのは考えもの。

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