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act.6影踏スクランブル<85>
孤独だった自分に大好きな人がどんどん増えていく。幸せなことに彼等も葵を好きだと言ってくれる。好きだからするスキンシップも沢山与えてくれる。恥ずかしさはあるけれど、それ自体に幸福を感じ始めていた。満たされた気持ちになって、自分も彼等にその気持ちを返したいと思う。
葵なりに解釈し、飲み込もうとしていた事実はどうやら間違っているようだ。このままでは皆呆れて葵から離れてしまうのではないか。それが怖くて仕方ない。
実際、京介には葵が他の人とくっつくのが嫌だとはっきり言われ、きつく叱られている。京介に嫌われたら葵はきっと立ち直れない。でも京介の望むように、何日かの話であっても都古を無い者として二人きりの時間を楽しむ気にはどうしてもなれなかった。都古はきっと悲しむだろうから。
「どうしよう……どうしたらいいか分かんない」
都古に会いに行くことも、忍の部屋に行くことも京介に禁じられた。櫻や奈央に甘えるのも彼は怒るだろう。嫌われたくない。でも二人で部屋に戻ったらきっとまた京介は都古を忘れろと言うはず。
ただでさえ温室での行為でのぼせたような状態が続く頭が悩みすぎて更に熱を上げ、沸騰したようにぐずぐずになっていく。
「葵ちゃん、大丈夫?ごめん、七が変なこと言っちゃった?意地悪言ったつもりなかったんだけど」
目に溜まる涙が溢れないよう必死で拭っていると、七瀬が焦ったように抱きついてきた。葵の頭を撫でる手もさっきより強い。
「ううん、七ちゃんのせいじゃないよ。京ちゃんに嫌われたらどうしよって考えたらなんか……」
「なんで京介っちが葵ちゃんのこと嫌いになるの?京介っちの生き甲斐なのに」
「”生き甲斐”?」
とてつもなく大袈裟に思えるワードが七瀬の口から飛び出て葵は思わずうわずった声を上げてしまった。
「ケンカしたの?さっきの京介っちはそんな感じなかったけど」
「そうじゃなくて……」
葵の顔を覗き込んでジッと見つめてくる七瀬に、葵はとうとう京介との出来事を口にする覚悟が決まった。
だが二人の秘密である”おまじない”のことは告げられないし、まして昨夜あらぬ所に施された愛撫の話も出来やしない。葵はただ昨夜沢山キスをされたことと、恐らく都古が帰るまで毎晩それを望まれていると思う、なんて随分ぼかした言い回ししか出来なかった。そしてその間、都古のことを考えるなと強く請われたことも打ち明ける。
だが七瀬はたったそれだけの話で全てを理解したかのように頷いた。
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