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act.6影踏スクランブル<86>

「あぁ……そういうことね。ま、絶好のチャンスだもんね」 「チャンスって?」 「いいの、こっちの話。でも葵ちゃんがこの状態でシても意味ないって言ってんのにあのむっつり野郎め。また綾に説教させたほうがいいかな」 七瀬は宥めるように葵を撫で続けながらも、ぶつぶつと独り言を言っては苦い顔をしてみせた。そしてしばらく無言になった後、もう一度葵を抱き締めると安心させるような笑顔でこう言った。 「今日七と綾、葵ちゃんの部屋泊まるね」 「え、今日?」 「ほら、前はたまにしてたじゃん。ゴールデンウィークも結局泊まりで遊べなかったしさ」 確かに七瀬たちの家に泊まったり、反対に寮や西名家に泊まってもらったりと互いに行き来することは何度もしていた。連休の間も計画していたものの実現出来ずにいたのも事実。しかしあまりにも唐突だ。 「でも京ちゃんが」 「大丈夫、京介っちもなんだかんだ言って七達のこと好きだから」 それはそうだろうが、不機嫌になりそうな予感はする。心配する葵をよそにもう決定事項として七瀬は綾瀬にメールを打ち始めてしまった。 京介と二人きりで”続き”をされるのが怖かった気持ちが勝っていて、ホッとしてしまったのは正直なところ。七瀬だけでなく綾瀬も居てくれたら、京介も楽しんでくれそうな気がしてくる。 七瀬がひとしきり携帯をいじり終えると、ちょうどよく授業の終業を告げるチャイムが鳴り響いた。そこでようやく葵は自分が一時間近くも眠っていたことを悟った。 “……すみませーん、失礼しまーす” チャイムが鳴り終わるタイミングで保健室の扉が開き、威勢の良い声が響いてきた。葵がいるベッドと廊下側の入り口はカーテンだけでなく、薄い壁で仕切られているのだが、それでもすぐ近くに居るかの如く大きな声だ。 “あれ?先生居ないのかな。怪我したんで消毒させてもらいまーす" 保険医の不在に気が付いたのか、声の主は律儀にもそう声を掛けて室内に入ってくるのが分かる。七瀬は特に来訪者を気にするでもなく伸びをしているが、葵は聞き覚えのある声に反応してベッドから下りてみることにした。

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