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act.6影踏スクランブル<94>

* * * * * * 生徒会の活動は放課後毎日行われているわけではない。今日も本来なら会議はないはずだった。だが忍からの緊急招集が掛かれば、向かわざるをえない。とはいえ、櫻にも予定というものがある。 同じクラスの奈央と一旦別れて職員室に立ち寄り、いつも通り音楽室の鍵を借りてから生徒会室のある特別棟へと足を運んだ。 どうやら呼ばれたのは三年のメンバーだけ、らしい。櫻が到着した時にはすでに忍と奈央、そして久しぶりに幸樹の姿まであった。一際大柄な男が居るだけで、随分と圧迫感がある。 「葵ちゃんは?呼んでないの?」 葵が居ないとつまらない。そんな本音を隠しもせず、奈央の隣の空席へと腰を下ろせば、忍は険しい顔を向けてきた。 「西名さんからの指示だ」 忍はそう言って己の携帯を差し出してきた。どうやら奈央や幸樹はもうその内容を知っているらしい。自分だけが出遅れたのは不愉快だが、全員が真面目な顔をする案件など葵のことに他ならないのだから黙って画面に目を通した。 そこには外部からの葵への接触を一切遮断するよう命じる文章が書かれていた。週刊誌の記者が葵を追っているとも付け加えられていた。その言葉自体は理解出来るものの、何故一介の高校生を記者が追うのか。肝心の部分は説明されていない。 だが櫻には一つ、心当たりがあった。 「……もしかして」 「何か知っているのか、櫻」 うっすら呟いた言葉は咎めるように忍に拾われてしまう。気付けば奈央や幸樹も自分にまっすぐ視線を向けている。誤魔化せるような雰囲気ではなかった。櫻は少し迷った挙げ句、椅子の背もたれに掛けた鞄から一枚のCDを取り出した。忍の姉、恵美から借りたものだ。 ジャケット写真には白いダリアに囲まれた葵が写っていて、こちらへ優しく微笑みかけている。 「このCD、全部で八作品あってそれなりに有名だったみたい。撮影者は葵ちゃんの父親で、”I(アイ)”って名前でモデルとして活動してたんだって」 作品に携わった目黒から聞き出した情報を簡潔に伝えれば、皆はCDへと改めて視線を注ぎ始めた。だがその中で奈央の顔色が変化したことに櫻は気が付く。 「奈央?どうかした?」 「……いや、その」 言い淀む奈央にも何か覚えがあるようだ。彼もまた悩んだ素振りを見せたあと、自分の携帯を操作して画面を見せてきた。 そこには紫のアネモネの花々に埋もれるように寝そべる葵の姿があった。淡い色をした髪も瞳も、花の色を反射して紫に色付いている美しい光景だ。 「歓迎会中にこの写真、葵くんが枕元に隠してて気になったからつい」 奈央はどこでそれを手に入れたのかを気まずそうに打ち明けてきた。奈央もまた葵の秘密を暴くのを恐れ、一人で抱え込んでいたようだった。歓迎会といえば葵が湖で溺れたことと否が応でもリンクする。葵にとってこの姿が良い思い出ではないとを身を持って思い知らされた櫻には、どうしても無関係とは思えなかった。

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