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act.6影踏スクランブル<95>

「上野、あの夜本当は何があったの?」 「せやから、ほら、俺が一緒に遊ぼって強引に誘って……」 「見え透いた嘘はもういい」 まだあの日した言い訳を押し通そうとする幸樹をぴしゃりと叱れば、彼は途端に笑みを失くした。だが何も告げる気はないと言いたげに今度は完全に口を噤んでしまう。本来彼はひどく頭の切れる男だ。冷たい側面があることも知っている。こうなってしまえば彼の口を割らせるのは困難だ。 「それぞれ葵に纏わるものを抱えていた、というわけか。何故教えてくれないんだ」 幸樹との睨み合いを遮ったのは珍しく拗ねたような声を出した忍だった。 「葵の身に何が起こっている?西名さんは何を警戒しているんだ?」 自問自答するように忍は言葉を重ねたが、それは櫻にも分からなかった。奈央や幸樹も同じようで、嫌な沈黙が空間を支配する。 葵とそれなりに仲を深めてきたつもりだ。西名家で暮らしていることを自ら教えてくれるぐらいには信頼もしてくれていると思う。だがまだ到底足りない。葵を理解してやることも、守ってやることも、何も知らないままでは不可能だ。 「西名さんに葵ちゃんのこと教えてほしいって頼んだんだ。連休中に」 「冬耶さん、何て言ってた?」 「葵ちゃんの心の準備が出来るまで待つつもりだったけど、そうも言ってられない状況だって。予想外のことばかり起きてるとも言ってた」 けれど、電話越しに櫻にだけ話すことを冬耶は断ってきた。葵にとって危険なことが起こり始めているのは間違いないようだが、それでも迂闊に話せるほどの内容ではないのだろう。 葵のことなら何でも知りたかった。その上で愛してやりたい、そう思う。けれど、知るのが怖い。そう感じるのもまた紛れもない本音だった。葵を泣かせてばかりいる自分が、葵を癒やしてやれる自信などなかったのだ。 「俺も同じように断られたよ。葵の家族が関係しているのは間違いないようだが……調べるか?どうする?」 葵が湖に飛び込んだ夜、データベースに記載されていた葵の実家の情報がデタラメだった時点で予測はついていた。けれどあの時は葵の秘密を勝手に暴くことは憚られて、結局それ以上立ち入る選択はしなかったのだが、忍が提案した通り、教えてもらえないのなら調べるのも一つの手のように思えた。 だがそれを止めたのは奈央だった。 「葵くんが望まないことはしたくない。傷付けたくないんだ、絶対に」 「それは俺ももちろん同じ気持ちだ。だが、無知ゆえに、葵を傷つけることになりかねない。そうだろう?」 奈央は穏やかに見えて案外意志は強い。忍の説得に対して惑う目をしたものの、肯定することはなかった。 「西名から何か聞いてるんじゃないの?」 「……色々あったってことぐらいはな」 京介と親しい幸樹が黙っていることを咎めれば、彼はそうはぐらかしてみせた。この様子では少なくとも櫻よりは葵のことを知っているように思えて悔しさが募る。

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