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act.6影踏スクランブル<108>
プラネタリウムから駅へと向かう通りを力のない足取りで歩みながら、奈央は自分のすべきことに思いを巡らせる。
いくら奈央がいわゆるお金持ちの子息であるといっても、それなりの敷地を持つプラネタリウムを買い取る財力など個人で持ち合わせているわけがない。それにもし叶ったところで、根本的な解決に至らないことも分かる。
けれど、そもそもあの場所を姑息な手段で奪おうとする奴等の思い通りにさせておくのはどうしても許せなかった。奈央は悩んだ挙げ句、友人に相談することを選んだ。
彼は一昨日、そして昨日とたっぷり説教を食らわせたおかげで奈央からの電話にも珍しくきちんと出てくれた上に、相談があると言えばすぐに飛んできてもくれる。
「奈央ちゃん、何かあった?」
駅に近い喫茶店で到着を待っていると、幸樹は額に汗を浮かべて駆け込んできた。そこまで急がせるつもりはなくて申し訳ない気持ちになる。奈央の正面に座った幸樹は店員にアイスコーヒーを頼むなり、すぐに本題に入ろうとしてくる。
「ごめん、そんなに慌てて来てくれなくても良かったのに」
「奈央ちゃんが俺に相談事なんて初めてやん。そら慌てるわ」
「……そうかな?」
幸樹の主張を受けて、奈央は先日忍に言われたことを思い出す。”困ったことがあっても人に頼らない”、葵が奈央をそう表現して心配してくれていたそうだが、忍自身も同感だと言っていた。確かに、幸樹に対しても心配したり怒ったりするばかりで頼る暇などなかった気がする。
「で、どないしたん?」
幸樹に改めて催促され、奈央は言葉を選びながら慎重にプラネタリウムの話を聞かせ始めた。奈央自身がそこまで内情を詳しく知っているわけではなく拙い説明になってしまったが、幸樹は随分と真剣にその話に耳を傾けてくれる。
「その爺さん騙したっちゅー男の名前は分かる?」
「ううん、分からない」
「会社の名前とか何かヒントになるもんない?」
手掛かりを見つけようとする幸樹に言われて、奈央は必死に記憶を遡らせた。館長の元にやってきた男達が個人名や所属する組織を口にしていた覚えはない。だが、受付の中で同じ会社名からの封筒が一束にまとめられていたことは思い出した。
「確か、何とかコーポレーションって名前で、太陽みたいなロゴが付いてた気がする。住所はここからそれほど遠くなかった」
わざわざ覚えようと思って見たわけではない。自然に視界に入っていた朧気な情報がヒントになる自信は無かった。だが幸樹は手元の携帯をしばらく黙って操作して、そしてにやりと口元を歪めてみせた。
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