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act.6影踏スクランブル<109>

「奈央ちゃん、何とかなるかもしれん」 「……どういうこと?何か分かった?」 「これやろ?」 幸樹が差し出した画面には、確かに封筒にプリントされていたものと同じロゴが表示されていた。一体彼がどうやって調べたか不思議で堪らないが、奈央は肯定の頷きを返す。 「ここな、昔うちの親父の舎弟だった奴がやってる会社っぽい。随分あくどいことばっかしてるみたいやな」 社名を突き止めただけでなく、その情報まで早くも得たようだ。だが、幸樹の家と縁のある人物が黒幕だと知って奈央は一気に不安に駆られる。 「親父の下にいる時からそいつ、色々問題起こしてたんやって。親父と反り合わんくて、追い出したらしい」 幸樹の家も遠からず絡んでいるかもしれないという恐れは、彼の言葉で薄れていく。 「親父のこと恨んでるのか知らんけど親父のシマまで荒らし始めてるし、そろそろ制裁加える話が出てるって」 幸樹の情報源は実家関連の人物らしい。店員が運んできたアイスコーヒーのグラスに直接口を付けて飲み干しながら、幸樹は自身の携帯の画面に書いてあるのだろう文章を要約して伝えてくれた。奈央にはあまりピンとこなかったが、物騒な気配は感じる。館長の言う通り、奈央が絡んでいい類の話ではないのかもしれないと実感もした。 「近い内に会社自体潰れそうやし、放っておいてもええんちゃう?」 「……でも」 「そんなに大事なとこなん?奈央ちゃんにとって」 幸樹に問われた奈央は、その場所を大切に思っているのは葵なのだと告げた。そして幸樹が生徒会に復活したら、今度は三人でプラネタリウムに行きたいのだとも葵が言っていたことを教える。だから相談の相手を彼にしたのだ。 今まで葵の名前を出さずに説明をしていたせいか、幸樹はグラスに浮かんだ氷を噛み砕く仕草を止め、驚いたように固まってしまった。 「そら守らなアカンな。任して、奈央ちゃん」 幸樹の瞳に一段と真剣さが増したように見えた。 「でも幸ちゃん、それってその……」 幸樹が解決のために何を利用するつもりか。それは実家の力に他ならない。家業のせいで学園内で肩身の狭い思いをし、将来が決められていることを嘆く彼に依頼するのは随分酷なことに思えた。 「奈央ちゃん、使えるもんは使わんと」 奈央の気持ちを察した幸樹はそう言って朗らかに笑いかけてくる。 「それにな、ほら、最近家のこと手伝わされてたやん?ああいう家やけど、親父って曲がったことは嫌うし、義理人情に厚いっちゅーか。地域にはさ、頼りにされてるっぽいのよ」 今まで父親や家の話は、口にすることも嫌がっていた幸樹にしては大きな変化だった。照れくさそうに頭を掻く姿は、新たな父親の側面を見られたことを喜んでいるようにも思えた。 「親父は一人で流行らんプラネタリウムで踏ん張ってる爺さん騙して金巻き上げようなんて絶対せーへん。自分の部下やった奴がそんなことしてるってのも許さんと思う」 奈央の目を見て幸樹は断言してみせた。 彼の頭の中ではすでにこれからの構想が出来上がっているようだったが、具体的にこれからどうするつもりなのか教えてはくれない。友人に危ないことをさせるのは気が引けて奈央は止めてみたけれど、生き生きとした幸樹は”任せて”と再び笑うだけだった。

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