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act.6影踏スクランブル<112>

「今度七ちゃんとも一緒に来たいな」 「”七ちゃん”って……あぁお友達の七瀬くん?」 「はい、七ちゃんも甘い物が好きなんです。遥さんが作ってくれたお菓子、よく二人で食べてて」 前回葵と共に完成させた図面をジャケットのポケットから取り出しながら尋ねると、葵は七瀬が自分よりも小柄だけれど運動神経が良くてとても元気なのだとも教えてくれた。 「今度葵くんの大好きな人達の写真が見たいな」 宮岡がねだれば、葵は少し驚いてみせたもののすぐに了承してくれる。 「今度アルバム持ってきますね。いつか皆にも会ってもらえたら嬉しいです」 そんな日が来た時、葵は宮岡を何と言って紹介してくれるのだろうか。宮岡のカウンセリングを受けていることを打ち明けられるようになったら話すつもりなのか。それとも、年の離れた友人として無難にやり過ごすのか。そのどちらであっても宮岡は構わない。 「宮岡先生の好きな人はどんな人達ですか?」 あまり堅苦しいカウンセリングの形式を取っていないからか、葵は自分自身の話を掘り下げるのではなく宮岡のことを知りたがってきた。けれど、こんなお喋りも葵との仲を深めるために決して無駄なことではない。 「好きな人は沢山いますよ。この店の彼もそうだけど、学生時代の友人が多いかな?だからきっと、葵くんも今仲良くしている人たちは生涯の付き合いになると思います」 葵の思考を自身へ向けるために軌道修正してみせたが、葵はなぜか難しい顔をしたあと宮岡の座るソファへと移動してくる。ぴたりと寄り添ってきた葵のことはもちろん受け入れてやるが、急な行動の意図はさすがに宮岡でも分からない。 「宮岡先生は……特別に大好きな人、いますか?」 口元に手を当ててこっそり尋ねてきたのは、思いがけないものだった。葵の言葉の選択は幼いものだが、それがいわゆる恋愛感情を指していることは理解できる。 「いますよ。とっても大好きな人」 「それはどんな人?特別な好きってわかったのはどうして?」 興味津々の目を向けてくる葵は幼くて可愛らしい。 彼がそうした方面に疎いことはなんとなく予想はついていた。明らかに幼馴染や家族として以上の愛情を向けている京介が傍に居ながら一向に気が付いていないのだ。カウンターに座る冬耶が時折葵を見やる視線も、兄以上の感情が窺える。 自分がどれほど魅力的かも自覚せず、宮岡とのスキンシップも平気で求めてくるのだから周囲の苦労が思いやられる。もしかしたら葵が教えてくれた”好きな人”の中にも彼等と同じ感情を抱く者が紛れているかもしれない。

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