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act.6影踏スクランブル<115>
「プラネタリウムも、葵くんは母親と楽しんだと思い込んでいました」
「あぁそれもやっぱり穂高くんだったんですか。あーちゃんはママが連れてったって言い張ってたから」
その主張を否定してしまったことが葵を深く傷付けてしまった。だから、冬耶も京介も、葵が大切にしているプラネタリウムへは一度も付き添うことを許されていない。
「でも葵くんはどこかでおかしいと気が付いていたみたいでね。”ママ”は名前を呼んでくれなかった、触ってもくれなかった。その記憶と明らかに矛盾していますから」
葵が取り乱す理由が一つ、理解できた。そうして生まれた矛盾に混乱し、パニックに陥ってしまっていたのだろう。
「言葉として私に話してくれるうちに、それを自覚したんでしょう。愛されていた思い出が偽りで、愛されていなかったことが真実だと」
あまりにも悲しい現実だったはずだ。けれど冬耶に向けた笑顔は決して無理をしているようには見えなかった。頭の片隅ではそれが正解なのだと分かっていて覚悟をしていたのかもしれない。それが余計に冬耶の切なさを煽る。
「でもアキのことは思い出せなかった。まだ時間は掛かりそうですね」
「……穂高くんはあーちゃんに忘れられていること、知ってるんですか?」
「もちろん。これからもずっと思い出さないままでいいと言っています」
穂高の気持ちが少し、分かる気がした。葵に対しての罪悪感が強いのだろう。
「俺たちも穂高くんのことをきちんと思い出せていませんでした。あんなに面倒見てもらったのに」
「仕方ないですよ。人の記憶なんて不確かなものだから。特に幼い頃の記憶はね」
葵が穂高のことを綺麗さっぱり記憶から消してしまったせいで、西名家でも話題に上がることがなくなってしまった。葵と仲良くするきっかけを作ってくれた大切な人なのに。宮岡は仕方ないというが、その一言で済ませていい話ではないように思う。少なくとも冬耶は自分にがっかりした。
「アキはね、葵くんが自分の記憶に向き合うことも本当は反対してるんです。辛い記憶を蘇らせてしまうから、と」
「辛い記憶?」
「恐らく、家族それぞれを失った時のこと、ですかね」
弟と母親を相次いで亡くし、そして最後に父親に見捨てられた。穂高も葵を置いていった。立て続いた出来事に、葵は一度完全に壊れてしまった。
「……そういえば、これ、ご存知ですか?」
冬耶は宮岡に名刺を一枚差し出した。葵が母を亡くした時のことを探る、あの記者の名刺だ。
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