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act.6影踏スクランブル<116>

「一昨日、俺に接触してきました。あーちゃんの周りのことを色々調べてるみたいなんです。一応うちの親が藤沢のほうに報告はいれたそうなんですが」 「アキからはまだ何も聞いていないな。話が下りてきてないのかもしれない。調べてみるよ」 宮岡はそう言って、名刺の情報を自身の手帳に写していく。その表情は険しかった。 「あまり人の職業を非難したくはないけれど、こればっかりはどうしても理解出来ない。有名人本人を追いかけるならまだ分かる。けれど亡くなってから十年以上も経って尚その子供に執着する理由が分からない。分かりたくもない」 テーブルに置いた宮岡の拳に力が込められた。冬耶もそれは同感だ。 世間が知りたがっている、世間に伝える義務がある、そんな台詞を大義名分のように吐いて群がる奴等の顔はひどく汚らわしく見えた。ようやく手に入れた平穏な生活も、馨が帰国したことで崩壊しかけていた。 「冬耶くん、今伝えるのは気が引けるけれど、一つ嫌な知らせがあります」 「なんですか?」 「藤沢馨は葵くんの昔の写真を集めた個展を開くつもりらしい。もしかしたらそうした準備をしていることが、マスコミに流れているのかもしれないですね」 宮岡のくれた情報は確かに嫌な知らせだったが、合点もいった。馨が再び表に出るタイミングで、過去の事件を蒸し返そうとしているのだろう。 「止めることは出来ないんでしょうか?」 「……あの男のことだ。制御すれば極端な行動に走りかねない。だからアキも様子を見るしかないことを悔しがっていました」 宮岡や穂高の考えは分かる。けれど黙って見過ごしたくはない。 「俺はあーちゃんを早く、”西名”にさせたいんです」 京介に言われたからではない。冬耶自身もそれをずっと望んでいた。もちろん、陽平も紗耶香も願いは同じだ。葵と家族である証を早く手に入れたい。戸籍だけが家族の繋がりとして必要なものだとは思わないが、どこかでまだ遠慮が残る葵の気を今よりは少し楽に出来ると信じている。 「そんな日が来ることを私も望んでいます。ただ、藤沢は敵に回すにはあまりにも強大だ。簡単な話ではありません」 「叶えるためにはどうしたらいいんでしょう」 葵の強い兄としては、弱音は吐きたくない。だが冬耶よりも年が上でどこか達観している様子の宮岡には素直に教えを請いたくなる。

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