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act.6影踏スクランブル<120>

* * * * * * 久しぶりの家族での外食に葵は随分とはしゃいだ様子だった。少し幼過ぎると感じるくらいに。幸い全員で警戒したおかげか、心配していた記者からの接触はなかったものの、京介には葵の振る舞いが気に掛かっていた。 陽平の運転する車で学園前まで送ってもらい、その車が見えなくなるまで手を振り続けた後、葵は尚も明るい笑顔で京介の腕にしがみついてくる。 「楽しかったね、京ちゃん。お母さん喜んでくれて良かった」 その気持ちが嘘だと言いたいわけではない。だがどこか無理を感じる笑顔だった。今指摘しても恐らく葵は否定する。だから京介はランプが灯る学園の門の中へ黙って葵を誘導してやった。 寮の部屋に戻るとそこには綾瀬と七瀬が泊まった名残がそこかしこに見受けられる。彼等は一泊どころか、せっかくだからと訳のわからぬ理由で結局昨晩もここに居座り続けたのだ。 「……そっか、七ちゃんも綾くんも、今日は居ないんだ」 葵から寂しげな呟きが漏れた。 無口な都古と、お喋りとは言えない京介との三人での時間は必然的に葵が中心になるが、七瀬が居るとその十倍は騒がしくしてくれる。居るだけで空間が明るくなるような存在がおらず寂しく感じるのは無理もない気がした。ただ、京介だけでは足りないと言われているようで何とも言えない気分にもなる。 「そうだ京ちゃん。宮岡先生がね、皆の写真見たいんだって。これ、プリントしに行ってもいい?」 「は?今から?」 自然と部屋の片付けを始めた葵が不意にとんでもないことを言い出した。昨晩七瀬と眺めたフォトアルバムを見て思い出したのだろう。葵はインスタントカメラを京介に見せてくる。 確かこのカメラには先日双子の誕生日会を行った帰りに学園の門で撮った集合写真も収められている。写っていない人間も居るが、宮岡に見せるならこれがあると楽なのは分かる。しかし今の時間を考えてほしい。夜更けというほどの時間ではないが、これから出掛けるには不向きだ。それに周りを警戒しなければいけない状況なら尚更葵を連れ出したくなどない。 「今からは無理。また今度な」 宥めるように頭に触れれば、葵は拗ねたようにすり抜けていってしまった。そのまま寝室に消えた葵が戻ってきた時手にしていたのは上下揃いのパジャマ。 「お風呂、入ってくる」 そう言い残して浴室へと向かう葵はやはりどこか情緒が不安定だ。無理をしていたのだろう。カウンセリングであれだけ泣いていたのだ。あのあとすぐに元気に笑って家族との団欒を過ごすほうが不自然だと京介は思う。

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