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act.6影踏スクランブル<123>

「あいつら全部束ねても負ける気しないんだけど。お前それ分かってんの?」 もし葵への愛情を数値化できるなら、葵を想う全員のそれを足したところで尚上回る自信が京介にはある。片想いを積み重ねた年数だけ毎日更に愛しくなっていく。 葵以外の選択など京介にはない。葵しかいない。考えたこともない。 「京ちゃんは強いもんね」 「そういうことじゃ……あぁもう何でわかんねぇかな」 物理的な強弱の話ではない。もちろんそれも負けるとは思わないが、今葵に伝えたいことは全くの別物。可愛くてたまらないはずの幼さが、憎らしい。 膝の上に乗せた葵の腰を引き寄せて、震える唇を静かに奪う。その行為も葵は京介とは違う解釈をしているのだ。京介が最初についた嘘のせい。自分が悪いのは分かっている。 「今日、眠りたくない」 キスの合間に葵はそんな我儘を言ってきた。下手をすれば誘い文句にも受け取れるけれど、期待してはいけない。 「夢見るから?」 「そう、今日はママに会う勇気、ない」 葵の何気ない一言で気付かされる。いつも葵は悪夢を見てから助けを求めてくるが、眠る前もきっと母親が夢の中に現れることに怯えていたのかもしれない。疲れを癒すための睡眠すら、葵には苦痛だったのだ。 「起きてたいなら付き合うよ。こうしててやるから」 「……ん、手も繋ぎたい」 京介の胸にぴったりと頬を寄せる葵は、小さな手を差し出してくる。その手の甲には噛み跡が赤く残っていた。 「噛みたい時、チューしなさいって教えてくれたのに。忘れちゃった」 「誰に言われたんだよそんなの」 求められるままに手を握りながら甲の傷を指でくすぐると、聞き捨てならないセリフが返ってくる。しかも犯人は櫻らしい。ということは、奈央だけでなく櫻にも葵のこの癖がバレてしまっているのだろう。そういえば西名家に帰りたくないとごねた時、共にいたのは櫻だった。 「それも他の奴とすんなよ葵」 「……七ちゃんもチューは綾くんとしかしないって言ってた。だから?」 葵はやはりこうして触れ合うことに疑問を感じ始め、親友に相談したようだ。成長して欲しいと願っていたが、葵につき続けてきた嘘がバレて、軽蔑されるのが怖い。 「綾くんだけが特別だから、なんだって。特別な人としかしちゃダメ、ってこと?」 「俺はいいんだよ」 「”おまじない”だから?」 「……そ」 またこうして嘘を重ねていく。葵は納得したような、していないような難しい顔をしてしまう。確かめるように京介がもう一度キスを仕掛けても、結局葵は大人しく受け入れる。 自分の香りの残る服を着せ、唇だけでなく頬や首筋にまでキスを落としてく。まるで葵が京介の物だとマーキングしているようだ。抱き合って互いの指を絡めながらの触れ合いも、恋人と何が違うのか疑問だった。 でも自分達はまだ家族で幼馴染。もしかしたらずっとこの関係が続くのかもしれない。終わりがくる可能性だって出てきた。 葵は少しずつ眠たそうに蕩けた顔をし始めても、宣言通り眠るのを嫌がって必死に堪える素振りを見せる。京介も今夜はこれ以上のスキンシップを葵に行う気にはなれなかった。だからひたすらに甘ったるい時間が過ぎていく。ずっと続けばいい。そう思う程に静かな夜だった。

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