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act.6影踏スクランブル<126>
* * * * * *
葵には生徒会で行われる会議の議事録をとるという仕事がある。だから会議の間はしっかりペンを握ってノートに向かっていなければならないのだが、今日は所々メモしきれずに空欄になっている部分があった。
理由は明確だ。昨晩寝ることを拒んだことへの代償。授業中は何とか耐えきったものの、ただでさえ休日明けで辛い月曜の授業を終えた放課後、葵の眠気はピークに達していた。
「……葵くん、大丈夫?」
ついにペンを手から落としてしまった葵を見かねて、隣に座る奈央が控えめに声を掛けてきた。慌てて姿勢を正したが時すでに遅し。室内の視線が葵に集中してしまっている。
「ごめんなさい、大丈夫です」
ペンを握り直して会議を続けられるようそう言ってみるけれど、議長として場を仕切っていた幸樹は再開する気配を見せない。これではまた怒られてしまうだろう。不安になってもう一度謝罪を口にしようとした葵に、周りは予想外の反応を示した。
「この辺で切り上げようか?オリエンの仕込みはほとんど終わってるし、あとは実作業だけでしょ」
自身も飽きたような口ぶりで提案したのは櫻だった。いつもならこうして葵が失敗した時に率先して”お仕置き”しようとしてくる彼が珍しい。
「せやけど、最終的な費用面の詰めだけはせんと。奈央ちゃんが処理出来ひんからな」
「いいよ、それは。櫻の言った通りほとんど前年度と変更なさそうだし」
幸樹は奈央を気遣うことは言うものの早々に会議を終わらせることには異論はないようだし、奈央もすんなりと受け入れようとしてしまう。彼らは優しいけれど、生徒会の仕事に関しては葵を甘やかしすぎたりはしない。予期せぬ展開に困った葵を救ったのは忍だった。
「……葵、ここはもう良いから、直近の、そうだな、十年分のオリエンの資料を隣から集めてきてくれ」
それは新たな仕事を与えるものだったが、いくら鈍くてもそれが葵の眠気を覚まさせるための方便だということぐらいは勘付いた。迷惑を掛けてしまった上に、気まで遣わせてしまうとさすがに落ち込む気持ちは隠しきれない。とはいえ、葵に忍の命令を断る権限はない。
唯一救いだったのは、作業員として同席していた聖と爽も一緒の仕事をするために同行してくれたことだった。
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