813 / 1393

act.6影踏スクランブル<127>

生徒会のある特別棟にはいつも葵達が過ごしている生徒会室の他に歴代の資料が保管された立派な造りの資料室が備えられている。よく利用する資料はすぐ閲覧出来るよう生徒会室に並べているせいか、実際に資料室に足を踏み入れたことはほとんど無い。 「案外広いんですね」 「なんか図書館みたい」 共に資料室へとやって来た聖と爽が、ぐるりと室内を見渡して声を掛けてくる。確かに書棚がびっしりと並んでいる空間は図書館に似ているかもしれない。 聖と爽は与えられた仕事をすぐにこなそうとはせず、卒業してしまった従兄、有澄の卒業写真を探し始めてしまう。その楽しげな様子を見ていると葵も少しずつ元気が出てくる。 「ほら、葵先輩も探しましょうよ」 「前年度の卒業アルバムなら”遥さん”も写ってるっしょ?」 書棚を漁り始めた双子は葵も仲間に引き入れようとしてきた。葵が大好きな遥の名前まで出して誘う意味は、彼らなりに葵を元気づけようとしているからなのだろう。 だが生憎卒業アルバムならもう穴が開くほど見ている。どのページに冬耶や遥の姿があるかまで覚えてしまったぐらいだ。 「お兄ちゃんがアルバム持ってるからもういっぱい見てるよ」 「「あぁそっか」」 葵が乗らない理由を告げれば、同じ顔が揃って残念そうな顔つきになるのが可愛らしい。 「いいよ、探してて。新しいアルバムは多分あっちのほうにあるはずだから」 扉付近に創立当初の資料が並べられているせいで、必然的に奥に行けば行くほど年度が新しくなることぐらいは予測がつく。葵がヒントを与えてやれば、双子はすぐに争うように資料室への奥へと駆け出していった。 その背中を見送りながら葵は資料室のカーテンを少し開けてみた。資料を日光から守るための分厚い素材を除けると、途端に室内に眩しいくらいの日差しが差し込んでくる。 少しだけなら問題ないだろう。葵はそう言い訳をして窓の外に視線をやった。 歓迎会初日の朝に届いた手紙に始まり、連休中ずっと葵に付き纏ってきた青年の存在。彼が告げた西名家と藤沢家の関係。目まぐるしく変化する日々の中でゆっくりと悩む隙も無かったが、決して忘れたわけではない。 都古が問題を起こしたきっかけも、結局彼は黙りを決め込んでしまっているし、そもそもあれから顔を合わせられていない。京介もどこか様子がおかしい。そしてダメ押しのように、先程生徒会の先輩達まで葵に向ける目線がいつもとは違っていた。 自分が何かしてしまったのだろうか。いや、”何もしなかった”ことがいけないのだとあの青年は言っていた。”葵の代わりに誰かがいつも盾になっている”、歓迎会中に一つ年上の先輩から注意されたことも時折葵を苦しめてくる。 そうして悩み始めると、つい暗い影に引き込まれてしまいそうになる。あの悪い癖も復活してしまいそうだ。だから少しでも明るい場所に居たかった。ガラス越しとはいえ、少し橙色の混じった日差しを浴びて体を温めれば少しだけ気持ちが落ち着いてくる。

ともだちにシェアしよう!