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act.6影踏スクランブル<131>

「君、今謹慎中だろう。学園に入らせるなと言われているんだ」 どうやら余計なお達しがなされているようだ。苛立ちを拳に乗せてぶつけたくなるが、警備員に真正面から抵抗すればまた謹慎期間が延長させられそうだ。とはいえ、葵の安全を確認するまでは足を止めるわけにはいかない。 都古は一度校門から離れると、校舎裏に近い場所まで移動することにした。人気もなく、木々が生い茂るこの付近は侵入に適している。レンガ造りの外壁の上にはご丁寧に柵まで取り付けられているが、よじ登るきっかけさえあれば都古にとっては容易いこと。 無事に目標の敷地内に降り立った瞬間、背後で警報のベルが鳴り響き出したが、どうでもいい。都古は葵が今の時間居るはずの生徒会室へと足を向けた。 だが校舎裏から特別棟までの間に突っ切ろうとした駐車場スペースで嫌なものを見つけてしまう。 「……これ、アオの?」 男子高校生にしては小さなサイズの革靴。それも片方だけ不自然な場所にコロンと転がっていたのだ。靴裏を確認すると、”22”とサイズが書かれている。やはり葵と同じ。 駐車場。片方だけの靴。それだけで葵が車に連れ込まれた予感しかしない。 「アオ!」 周囲をぐるりと見渡して声を張らせても、返事は全く聞こえなかった。 「どうしよう、アオ……アオ」 革靴を胸に抱きながら都古は次に行うべきことを見失ってただひたすら葵の名前を呼ぶことしか出来ない。しっかりしなくては。そう思うのに、自分よりも遥かに大切な存在が失われたかもしれないと考えるだけで思考回路がショートする。 それでもまだ一縷の望みを掛けて、都古は生徒会室に顔を出すことにした。少し抜けている葵のことだ。もしかしたら靴を失くしてしまっただけかもしれない。都古のことをいつもと変わらない笑顔で迎えてくれるに違いない。 再び走り出すうちに望みがどんどんと膨らんでいく。 生徒会の活動中、特別棟の入り口は開放されている。一般生徒にも気軽に生徒会室に遊びにきてほしいという冬耶の願いが受け継がれているようだが、都古の知る限り、都古以外にここを堂々と突破できる生徒を他に知らない。 小さなエントランスホールから飾り細工の手すりが美しい階段を駆け上がると、その廊下には焦った顔をした生徒会のメンバー達が揃っていた。その中に葵の姿はない。 「侵入者はお前か、カラス」 「アオは!?」 どうやら都古が警報を鳴らしたことはすでに忍に伝わっているらしい。だが、そんなことなど最早都古には興味のないことだ。掴みかかれば、彼は苦い顔をしてみせる。

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