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act.6影踏スクランブル<132>

「今探していたところだ。資料室から姿を消したことにさっき気が付いたんだ」 生徒会室で一緒に居たのでは無かったのか。何故葵を見失うような事態になるのか。都古にはさっぱり理解出来ない。ここは葵を安心して任せられる場所だと、そう自分に言い聞かせて我慢してきた苦労がぐしゃぐしゃに潰された気分だ。 「役立たず。お前ら全員、役立たず」 憎しみを込めて告げた言葉に忍は反論しなかった。代わりに何故か双子が今にも泣き出しそうな顔で俯くのが見える。葵を逃したのは彼らにきっかけがあるのかもしれない。でも問い詰めたところで葵が帰ってくるわけではない。 「それ、葵ちゃんの靴?どこで見つけたの?」 「関係ない」 「あのね、君が怒るのも分かるけど、葵ちゃん探す手掛かりがこっちだって欲しいんだよ。協力して」 櫻が都古の抱き締める靴を見つけて話し掛けてくるが、素直に言うことを聞くのは癪だった。でも携帯電話を持たない都古が、西名家に危険度を伝えるには彼等を使うのが効率的なのは分かる。 「駐車場。アオ、車で連れてかれた、かも。冬耶さんに、言って」 頼るわけではない。利用するだけ。そう自分を納得させて靴の発見場所とそこから推測される可能性を伝えれば、奈央がその連絡係を請け負ってくれた。 「っちゅーことは学外探したほうがええんやな?車のナンバー洗い出して追うか。バイクのほうが小回りきくから、俺と京介で動くわ」 黙って成り行きを見守る素振りだった幸樹は、そう言い残して階段を駆け下りていった。その後ろ姿にはいつもの飄々とした空気はない。 「……葵はここから攫われたわけじゃない。問題は、葵が何故ここを出て行ったか。それが気になる」 忍の冷静な分析が、頭に血が上った状態の都古には嫌味にすら聞こえた。だが確かに都古も気にならないといえば嘘になる。 双子の話では、ほんのわずかな時間葵から目を離した隙にその姿が忽然と消えていたのだという。だが誰かが部屋に入ってきた様子も、葵が声を上げることもなかったから、自ら外に出たと考えるのが自然らしい。 葵が最後に居たという窓際のカーテンは少し開かれたままになっている。外を眺めていたのかもしれない。そしてそこで父親の姿を見つけてしまったのだろうか。 葵がその姿を追い求めたのだとしたら。葵を探し出したところで、帰りたがらない可能性もある。 だから会わせてはいけないと、西名家の皆は主張していたのか。ようやくその言葉の重みを痛感する。葵が求めているのは”家族”、なのだ。 飛び出した瞬間、葵は都古のことを一瞬でも思い出してくれたのだろうか。もう二度と置いて行かないと約束した、葵だけの猫の存在を。 溢れる切なさを堪えるように、都古は主人の残した革靴をギュッと一際強く抱き締めた。

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