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act.6影踏スクランブル<146>

腕の中の葵は当然女ではないが、雄臭さもない。だから徹もその気になったのかもしれない。 若葉の首筋に擦り付けてくる金糸のような髪も、柔らかな弾力の肌も、涙の雫を纏って揺れる長い睫毛も。異様に唆るものがある。何より、まだあどけなさの残る甘い声が良い。 だがさっき潤わせてやったというのに、また掠れ始めてきた。若葉が喘ぎ続ける葵にもう一度水を与えてやろうとペットボトルに手を伸ばしたその時、唐突に邪魔が入る。 「な、何を……」 入り口で言葉を失い立ち尽くしていたのは、どこかで見覚えのある男だった。白衣を羽織っているところを見ると、恐らく教師なのだろう。 葵の手にもまだ拘束用の枷をはめたまま。合意に見えない行為に教師として憤っているかと思えば、彼は思わぬことを言い始めた。 「私の、葵くんに……何を」 顔を真っ赤に震えだした男は葵を捕らえた犯人だったようだ。その証拠に、若葉の膝の上で小さな体がガクガクと震え始める。 「あぁごめんネ。これアンタの?他人のモンって美味しそうに見えちゃって」 「触るな、葵くんに触るな」 若葉が誰かを知っているはずなのだが、彼はそれよりも怒りの度合いが度を越しているようだ。後先考えずこちらに向かってきたが、若葉が相手をするまでもなく徹があっさりと鳩尾に一発食らわせただけで彼はその場に蹲る。苦しげな嗚咽を繰り返す彼はそう簡単には立ち上がれないだろう。 だが、葵にはそれが理解できないらしい。両手が不自由にも関わらず、体を捻り、懸命に若葉にすり寄ってきた。 「…こわ、い…やだ」 「俺もお前のことヤろうとしてんだけど、分かってんの?」 守ってくれと言わんばかりにギュッとしがみついてくるが、完全に相手を間違えている。馬鹿だと呆れるけれど、気分は悪くない。若葉のシャツに頬を擦り付けて、まるでその匂いに安心するかのように目を細める仕草も妙な気にさせられる。 「若、どうします?この淫行教師」 お楽しみを邪魔されたせいか、徹は普段も冷たい眼を更に尖らせて足元の塊を蹴ってみせた。 「これ突っ込んでやったら?男もいけるようになったんだろ?」 「……冗談じゃない」 バッグの中から取り出した瘤付きの太いバイブを徹に投げてからかえば、徹は心底気持ち悪そうに顔をしかめた。確かに若葉が今腕に抱いている葵と、床を這う男は比べようがない。若葉も触れるのすら御免だ。

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