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act.6影踏スクランブル<150>

* * * * * * 助手席のシートを倒し、葵の体を横たえさせる。まさか初めてのドライブデートがこんな形になるとは思いもしなかった。 冬耶に抱かれて安心したのか、それとも余程疲れていたのか。葵はすっかり眠りに落ち始めていた。本当なら寮のベッドまで運んですぐに落ち着かせてやりたいが、今の葵を誰の目にも触れさせたくない。 「……あーちゃん、ごめんな」 冬耶はそう謝罪を口にすると、葵の太腿に巻かれたコードを解き、その先のものをゆっくりと引っ張り出す。葵が見つかったことへの安堵など感じる暇もなく、今はただ葵がこうして陵辱された光景を目の当たりにした怒りだけが滲んでくる。ぬちゃりと粘液を纏って現れた玩具を、冬耶は力任せに地面に叩きつけた。 葵の両手と、そして秘部に施された拘束も外してやりたかったが、小さな鍵が付いていて叶わない。無理やり引き千切ることも考えたけれど、それは葵に痛みを感じさせてしまう。 「あとで取ってあげるから許して」 涙の跡が残る頬にそっと口付け、冬耶は葵の体に掛かっていたパーカーの前を閉じてやった。 この先どうするか。少しの間思案した冬耶は二人の人物に連絡を入れた。 一人は今も必死に葵の捜索に駆けずり回っている弟、京介。葵が見つかったことだけを簡潔に告げ、周りにもそれを伝えるようお願いした。京介は当然葵がどこに居たのか、今どこに居るのかを尋ねてきたが、冬耶はまた連絡すると言って無理やり会話を切り上げた。 もう一人は昨日連絡先を交換したばかりの医師、宮岡だった。彼も葵の行方をひどく心配してくれていた。 初めは馨が犯人だと疑っていたものの、宮岡が穂高にコンタクトを取り、その可能性がないことも教えてくれた。とはいえ、穂高も馨の全てを把握出来ているわけではないし、学費を支払い葵の父親としてのアピールをしてきたことは事実。冬耶はつい先刻まで陽平と藤沢家との話し合いに同席していたのだ。 その結果、冬耶も陽平も、葵を誘拐したことに関しては馨がシロだという判断に至り、急いで学園に戻ってきた矢先、若葉と出会った。 「先生、今からあーちゃん連れてそちらに行っても……?」 『それはもちろん構わないけど、葵くんは無事、ではなかったんですね?』 電話越しに聞こえる宮岡の声のトーンが一段下がった。冬耶が宮岡に何を求めているか察したらしい。

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