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act.6影踏スクランブル<151>

『私は一応心理が専門だから、あまり酷い怪我ならきちんと病院に連れて行ったほうがいい』 「いえ、外傷もありますが……」 『そう、分かった』 葵の状態を言葉にして伝えるのは憚られて言い淀めば宮岡は先回りして答えてきた。そして自宅の住所も電話越しに伝えてくれる。 彼との会話を終えると、冬耶は改めて葵に向き合い、シートベルトを締めてやる。少しだけ苦しげに吐息を漏らす葵を本当なら抱き締めて離してやりたくない。泣きたくなるのを必死にこらえ、冬耶は自身も運転席へと体を滑り込ませた。 運転中、何度か京介、そして陽平や紗耶香からも着信があった。やはり皆、冬耶が葵を保護したとはいえ、心配で堪らないらしい。本当ならすぐにでも葵の姿を見せてやりたいが、”ラリってる”、そう表現した若葉の言葉がそれを阻んだ。 何も知らない葵に、奴は何をしてくれたのか。ハンドルを握る手に知らず知らずのうちに力がこもる。 若葉が冬耶に敵対心を持っていることは昔から知っている。一般生徒にちょっかいを掛けることなんて序の口で、時には冬耶と同じ生徒会に所属する生徒や、遥や京介にまで近づき、それぞれを違う形で傷付けもした。 だから彼が葵をターゲットにするのは自然な道理だとは思うものの、今まで若葉は葵に興味を示してこなかった。安心しきっていたわけではないが、何故急に葵を狙ったのか。冬耶が卒業するのを待っていただけなのか。さすがの冬耶にも彼の思考回路までは読めそうになかった。 ただ分かるのは、自分が若葉にいがまれているせいで葵を傷付けてしまったこと。どう償えばいいか、考えただけで目眩がする。 冬耶が伝えられた住所にあるマンションの前に車をつけると、そこには宮岡の姿があった。ずっと待っていてくれたらしい。手にタオルケットまで準備しているあたり、やはり彼は葵に何があったのか察していたようだった。 受け取ったタオルケットで葵の体を包み抱き上げると、宮岡がマンションの中へと先導してくれる。 「誰がやったかはわかってる?学校の子?」 「……俺を、恨んでる人間です」 「そう、あまり気に病まないように」 冬耶が自責の念に駆られていることを悟った宮岡は、ただ静かに慰めてきた。だが気分が晴れるわけがない。

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