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act.6影踏スクランブル<153>

宮岡がキッチンへと消えてから、ようやく冬耶は携帯のディプレイを操作した。そこにはおびただしい数の着信とメッセージが表示されている。そのほとんどが京介だった。 早く彼等を安心させるようなことを言ってやりたいとは思う。だが、葵が無事だったなんて嘘は付けない。けれど葵をどんな状態で発見したかも正直に打ち明けることも出来なかった。 携帯を片手に固まっていると、宮岡は皿を二つ持って現れた。湯気の立ち上るそれはトマトソースが掛かったパスタだった。そういえば葵はパスタが好物だった。たったそれだけで目頭が熱くなる。 「レトルトのソースなので味は保証します」 皿をテーブルに並べた宮岡はそう言って笑う。それにつられるように冬耶も少しだけ口元を緩めてみせた。 「……その九夜という子が葵くんをこんな目に遭わせた、で間違いないのかな?」 食事の間、宮岡に葵を発見した時のことを伝えれば、彼は少しだけ考え込む素振りを見せたあと、そんなことを言ってきた。状況から考えればまず若葉が犯人で間違いない。そう思ったのだが、指摘されて冬耶も冷静に考察し始めた。 確かにあの男は暴君ではあるが、拘束具を周到に用意するようなねちっこいタイプではない。葵の姿が衝撃的過ぎて、普段は回る頭が硬直していたらしい。 それに若葉のことは厳重にマークしていたつもりだ。彼がカードキーを使えばすぐに通知が来る仕様にしてある。今日若葉が初めてカードを使ったのは葵が姿を消してからかなり時間が経過した後。 「でも、じゃあ誰が……なんで九夜はあーちゃんを」 「学校に居たのは間違いない?沢山探したんですよね?それでも見つからなかったなら葵くんは学校の中のどこに居たんだろう?教室?寮?」 フォークでパスタを器用に巻き取りながら、宮岡は冬耶の思考を正すように問いかけてくる。彼だって答えを知らぬはずなのだが、少しだけ距離のある関係の第三者だからこそ、フラットな目線で今回のことを見られるのだろう。 消去法で考えていけば、自ずと答えは導き出せそうだ。冬耶は食事を一旦中断させ、もう一度携帯を取り出した。 両親と京介には、葵と共に外泊することと、葵は少し怪我をしているが今はゆっくり眠っていることを伝えるメッセージを送る。 到底それで納得はしないだろうが、若葉が犯人候補だと告げればきっと血気盛んな父と弟は九夜家に突撃しかねない。泊まる先が宮岡の家だと告げても、早々にこちらに乗り込んでくるはず。そのどちらも、今の冬耶は避けたかった。

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