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act.6影踏スクランブル<160>

* * * * * * 京介に言われた通りの場所に向かおうとすると奈央がその後を着いてきた。何か目的を持って動き出した幸樹のことを訝しんでいるようだった。 「……奈央ちゃんは来ないほうがええんちゃう?」 「どうして?」 葵が居なくなった。その時点で幸樹は最悪の可能性も考えていた。誰も口には出していなかったが、都古の暴れっぷりや京介の最後の表情を見ても、恐らくはそういうことなのだろう。清廉な王子様を連れて行くのは気が引ける。 「多分、その、嫌なもん見るかもしれんで」 「構わない、覚悟はしてる。葵くんに何があったか知るのを恐れたくない」 やはり彼は清い。真っ直ぐに幸樹を見上げて言い切る奈央は臆さずに感情をぶつけてくる。こうなったら幸樹が何と言ったところで引きはしないだろう。 だが、幸樹は倉庫に辿り着きその惨状を目に入れた瞬間、やはり力ずくでも奈央を置いてくればよかったと後悔をした。あまりにも生々しい現場がそこにあった。 蛍光灯の明かりに晒されたのは葵を捕らえていたと思われる鎖。机の両端に付けられていることから、手足の両方を拘束されていたのだろう。名残のように黒革の枷も一組転がっている。 「奈央ちゃん、外で待っとき」 目を見開いて固まる奈央にそう声を掛けたが、彼は動く気配を見せない。宣言したことを実行するつもりなのか、それとも足が動かないのか。だから注意したのに、と思わなくもないが、冷静に対処できる自分のほうがおかしいのは自覚している。幸樹は黙って部屋の物色を続けることにした。 机に敷かれた毛布には点々と濡れた跡がある。中でも少し色の付いた粘液は性交用のローションの類に見えた。だが想像したような白濁は見当たらない。独特の匂いも部屋からは感じ取れない。 未遂で終わったのかも。幸樹の胸にそんな期待が宿る。だがあくまでざっと部屋を見ての推測だ。確証が得られるまでは迂闊なことは口に出来ない。 更に部屋の中を観察すると、唯一ある窓が開いていることに気が付いた。近寄ると鍵の部分だけが外側から割られていて、わずかに血の跡が残っている。

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