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act.6影踏スクランブル<161>

「どういうことや、誰がここを開けた?」 もう一度倉庫の入り口に戻って辺りを見渡せば、ひしゃげた南京錠とペンチが転がっている。どう見ても無理やりこの場をこじ開けたことを示している。 葵が最後に居たのは駐車場。そして、そこからほど近いこの倉庫に監禁されていた、そこまではまず残された革靴と、倉庫の状況から見て間違いないだろう。 葵を監禁した犯人とは別の人間がまず窓を開けて中の葵を確認し、正面から突入した。現場から考えられるのはそんな筋書きだろうか。 冬耶と若葉らしき姿が校門近くの防犯カメラに映っていたことから、そこで冬耶は葵を若葉から保護したはず。 「……っちゅーことは、若葉がここから助けたんか?あいつが?」 幸樹が導きだした結論はそうだった。だがあまりにも非現実的だ。若葉がわざわざ怪我を負ってまで葵を助けたなんて有り得ない。 だが、幸樹はすぐに自分のその考えを否定する。若葉は本能に生きる男。目の前に食べ頃の獲物がいれば嬉々として奪いに行きそうだ。そう、”助けた”のではなく、便乗して葵を犯そうとしたのだと思えば自然な気がする。 そうなると気になるのは真犯人のこと。 まるで最初から葵を犯すつもりだったかのような状況だ。ペンチで開けなければならなかったということは、犯人はこの倉庫の南京錠の鍵を元々所持していた。拘束具まで準備している。そんなことをしそうな人間は一人しか思いつかない。 葵をいつもねっとりとした視線で見つめ、目だけでは飽き足らず、隙を見ては盗撮を繰り返していた教師。 「奈央ちゃん、今日見回りあったよな?誰や?」 「え?見回り?」 「知らん?」 まだぼんやりと青ざめた顔をする奈央の肩を叩いて幸樹は問いかける。奈央はその意図を理解できないようだったが、幸樹の形相に少しずつしっかりした面持ちに戻ってくる。 「……一ノ瀬先生、だった」 「やっぱな」 幸樹は自分の推理が正しいことを確信し始めた。 あの教師は不定期で行われる深夜の宿直当番をよく引き受けている。同僚から嫌われている彼が面倒な当番を押し付けられている、と言い換えてもいい。だが本人もカメラを持ち歩いてウロウロしていたのだから、葵を盗撮出来る機会を狙えるいいチャンスだとでも考えていたはずだ。学園の鍵を手に入れることも簡単だ。

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