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act.6影踏スクランブル<167>

「捕まえるのは後輩に任せたので、その後のことはこれから考えます。それに、藤沢さんのことも早くどうにかしないと」 「葵くんの学費、払って行ったんですよね?」 「ええ、あーちゃんの親は自分だって主張したつもりなんでしょう。学園の内部でも混乱が生じているみたいで。それを解決しないと、あーちゃんを迂闊に登校させられない」 葵の複雑な家庭環境は元々学園側も承知の上だろうが、さすがに生みの親と育ての親同士が揉めていることが明らかになれば話は別だ。葵本人からも事情を聞き出そうとするはずだが、争いの渦中にいる自覚すらない葵にとって、それは余計な混乱を引き起こす事態になりかねない。 「明日先生の口から、しばらく休むようにあーちゃんに言い聞かせてもらえませんか?俺からよりも先生の言葉のほうが効くと思うので」 依頼自体は大したことではない。だが、葵が”普通”を装おうとすることを読み切った冬耶の口ぶりが、無性に宮岡の心を痛ませた。心から懐いて、甘えきっているように見えても、葵はどこか西名家に対して”いい子”でいないといけないという強迫観念に駆られているのだろう。 「家で静養するように伝えたらいいかな?」 「そう、ですね。さすがにこれ以上引き延ばせないだろうし」 少し戸惑いを見せる声音から、冬耶がまだ葵を連れて帰る気になれていないことが窺えた。 「でも帰る前に、あーちゃんとゆっくり話し合わないと。それまでもう少しだけ、ここに居させてください」 「うん、構わないよ」 冬耶の心情を汲み取って頷いてやれば、冬耶は宮岡へと静かに頭を下げると、自身もゆっくりとベッドに潜り込んだ。葵を抱き締め直す腕は相変わらず優しい。 宮岡もそれを見届けてから、明かりが灯ったままのパソコンへと戻っていった。書きかけのメールを保存してから電源を落とし、自身も眠る準備に入る。今夜のベッド代わりのソファは、少し座面は固いけれど眠るのに不便はない大きさだ。 タオルケットを体に掛けてはみたものの、まだ眠気は訪れそうもなかった。いくら免疫があるとはいえ、葵は宮岡にとっても特別な存在だ。そんな葵が陵辱されたとあれば、大人気ない感情が溢れてくるのは否めない。 医師として、葵に向き合い、癒やすことが出来るだろうか。 仕事ぶりにはそれなりに自信のあった宮岡でも、今夜は不安が心をくすぶり続けてくる。まだまだ長い夜になりそうだ。眠れない予感を覚えた宮岡は、まだ起きている様子の冬耶に聞こえないよう、小さく息をついてみせた。

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