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act.6影踏スクランブル<174>

そうしてしばらく校舎とグラウンドとを繋ぐ小道を見下ろしていると、見覚えのある人物が目に留まった。 「……あいつ」 口元に大きなガーゼを当てているせいで人相が分かりにくいが、髪色も背格好もよく覚えている。都古に絡んだだけでなく、葵を連れ去りかけた場面にも遭遇したのだ。あの時感じた怒りが、再び蘇ってくる。 都古が相当な怪我を負わせて病院送りにしたとは聞いていたが、どうやらもう復活したらしい。 「馬鹿って体力だけはあるよな」 遠くに見える彼を睨みつけながらそう憎まれ口も叩きたくなる。 だが爽がそろそろ教室に戻ろうと体を手すりから話した時、もう一人、知っている顔が見えて爽は思わず動きを止めた。 170に満たない小柄な体躯、ライトブラウンに染めた髪。確か彼は、奈央にしつこく付きまとっていた生徒ではなかったか。 “奈央さま” 癇に障る高い声で奈央をそう呼んでいたことを思い出す。 なぜ奈央の熱烈なファンと、いかにもな不良が人目を気にしながらもべったりと体を密着させているのか。学年が違うはずの彼らがどんな接点を持っているのか。 気になった爽は思わず渡り廊下を走り、彼らがいる校舎裏へと駆け出していた。 彼らが消えた茂みに近づけば、怪我をした生徒の顔中に慈しむようにキスを送る上級生の姿があった。 「痛そうだね。かわいそ。早く治るといいね?」 「あいつ、思いっきり口ピ引っ張りやがって。当分塞がらねぇって」 「えーじゃあ、思いっきりキスできないね。残念」 興味のないどころか、嫌いな部類に入る人間たちがいちゃつく様など気色悪いだけだ。思わず探りを入れたくなってしまったが、彼らが関係を持っていたところで爽には何の影響もない。 収穫なしだと諦めて爽はその場を離れようとしたが、その後の彼らの会話に思わず足を止めた。 「なぁ、未里。あいつネコだってガセだろ?四人がかりでもこのザマでどうやったら抱けんだよ」 そこで初めて、奈央のファンが未里という名だと思い出したが、気になったのはその後。都古がただ喧嘩に乗っただけだと思い込んでいたが、どうやら彼は都古に性的に手を出そうとしたらしい。つくづく下衆な奴らだ。都古がブチ切れるのも無理はない。

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