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act.6影踏スクランブル<185>

* * * * * * いくら寝ても寝足りない。頭の中に靄がかかったような嫌な気分だった。でもカラカラに乾いた喉は水分を欲しがっている。葵は重たい体をひねり、上体を起こした。それに気づき、ぴったりと寄り添っていた都古がすぐさま手を差し伸べてくれる。 「葵、これでいい?」 ベッド脇でずっと付き添っていてくれたのだろう。京介は葵が何を欲しているか察して、ストローを差したグラスを口元に運んできた。色からして、葵の好きなりんごジュースに違いない。 「なんで分かったの」 「いいから飲みな。ひどい声してる」 京介はそう言って、苦い顔のまま葵の唇にストローを当ててきた。たしかに自分でも聞き苦しい声だったと思う。ただそれは乾いているからだけではない。昨晩、口を塞がれたままずっと泣き叫び続けた結果だ。 水やお茶、スポーツドリンクよりも、今は大好きなジュースが体に染みる。程よい甘酸っぱさが今の葵にはこれ以上ないくらい優しく感じた。 「まだ熱っぽいな。薬飲む?」 「ううん、眠くなるからいい」 確かめるように額に触れてくる京介に、葵は首を横に振って答える。京介は一瞬心配そうな目を向けてきたが、それ以上無理強いせず、都古に背をもたれかけて座る葵の横に並んできた。 青い空模様の壁にかけられた時計は、授業が終わる時刻を示していた。 「そろそろ、生徒会が始まる時間だ」 日常が恋しくて、ついそんなことをぼやいてしまう。休みがちな自分を、先輩たちはどう思うだろうか。そもそも、葵が休んだ原因は彼らにどう伝わっているのか。 「会長が早く治して戻ってこいってさ」 「……治すって?」 「捻挫したことは言ってるから」 忍からの伝言は、葵の不安を和らげるものだったが、しっかりと湿布を巻かれた足首をツンと突いてくる京介の表情に、わずかに違和感を覚えた。 本当にそれだけ、だろうか。いや、生徒会に対してだけではない。京介に昨晩のことがどう伝わっているのかも葵は知らなかった。もちろん、後ろから葵をぎゅっと抱きしめ微睡む都古もそうだ。 「あとで寮行くけど、なんか取ってくるものある?」 「……なんで?」 「あぁ、あのクマはなしな。でけぇから」 明日は登校しよう。そう考えていた葵に、京介の提案はやはりどこかおかしく感じた。葵の疑問に取り合わず、会話を逸らしてくるのもおかしい。

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