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act.6影踏スクランブル<190>

「出すのか?」 「まぁこれは保険みたいなもんよ。使い方は色々ある。あいつがここから居なくなれば解決、ってもんでもないやん?」 一ノ瀬を学園から追放するだけでは罰が軽すぎる。暗にそう伝えれば、京介は複雑な顔で押し黙った。反対するつもりはなさそうだが、何が正解かが見出せないでいるのだろう。 京介の様子を見て、幸樹は幸樹なりの本題に入ることにした。一ノ瀬の処遇を話し合うために、こうしてわざわざ対面で会う機会を作ったわけではない。 「遠回しな言い方はできひんからストレートに言うけど」 幸樹はそう前置きをして、京介に向き合った。気づけば太陽はもう沈みかけていて、ドアの脇に付けられたランプに明かりが灯り始めている。 「藤沢ちゃんは清いまんまやから、安心しぃ」 「は?」 「一ノ瀬が突っ込んだのは、舌、指、ローションとピンクローターだけ」 「……いや、だけってそれ」 京介は脱力したように紫煙を吐き出すと、ぐしゃりと己の髪の毛を掻き乱す。挿入までは果たされていないことへの安堵と、とはいえ弄ばれたことには変わりない事実との板挟みに苦しんでいる様子だ。 「つーか、それ、一ノ瀬が言ったことだろ?どこまで本当かわかんねぇ。医者からも暴行されてはないって言われたみてぇだけどさ」 京介は幸樹の情報源を、一ノ瀬本人だと思ったらしい。だが、これに限っては力に物を言わせたわけではない。一ノ瀬は幸樹の予想通り、彼は凶行の一部始終を記録に収めていたのだ。暗い倉庫内の映像ゆえ、所々見えづらかったが、窓から差し込む月明かりのおかげで何があったかは十分に把握できた。 「多分これ言ったら京介怒ると思うけど。あいつな、ビデオ撮ってて」 「はぁ!?」 「それ観て確認したっちゅーわけ。納得した?」 夕闇の中でも、京介の顔が怒りで上気したのが分かる。でも湧き上がる感情をどこにぶつけていいのか悩ましいのだろう。火のついた煙草を地面に投げ捨て、そのまま拳まで叩きつけてみせるが、一向に落ち着く気配がない。 「言っとくけど、観たのは不可抗力やし、オカズにもしてへん。さすがに藤沢ちゃん泣いてる映像じゃ勃たんわ」 「……お前、ふざけんなよマジで」 この場にいない一ノ瀬の代わりに怒りの捌け口になってやろう、とあえて彼の神経を逆撫でるような軽口を叩いてみたがギロリと睨まれただけで終わった。あからさまな挑発に乗るほどは、正気を失ってはいないようだ。 だから幸樹は場の空気を変えることにした。デニムに突っ込んだビニールの包みを一つ、京介へと放り投げる。

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