902 / 1393

act.7昏迷ノスタルジア<14>

* * * * * * 学園の中では生徒会役員が圧倒的な権力を持つ。会長ともなれば尚更だ。成績さえ落ちなければ、正直なところ授業を受けずとも教員に咎められることはないだろう。 だから忍は今日一度も教室に足を運ばずに放課後を迎えた。昼前に京介と会話してから、ずっと生徒会室にこもり調べ物をしていたのだ。 葵の抱えるものについて、冬耶は近いうちに話してくれるつもりだというが、一昨日のようなことが起きてしまえば焦る気持ちばかりが湧き上がるのは否めない。 だが、教員が話していた葵の学費について調べてみても、忍が危惧していたようなことは起きていなかった。毎回遅延もなく、きちんと振り込まれている。一定の成績をおさめている葵は奨学金制度を利用しているらしく、そもそも一般生徒に比べれば学費の負担はそれほど大きくない。 唯一気になるのは振込元が西名家名義であったこと。どうやら葵は西名家にただ間借りしているわけではなく、金銭的にも世話になっているようだった。 過去の記録を遡るのに多少苦労はしたが、西名家が葵を引き取ったであろうタイミングを知ることもできた。 幼稚舎までは“フジサワカオル”、そして初等部入学時には“フジサワマサキ”という名義で葵の学費が振り込まれていた。それ以降が西名家というわけだ。 藤沢の姓がつくどちらの名前も忍には心当たりがあった。 北条グループと並び、日本を代表する企業の一つと評される藤沢グループの現トップとその跡継ぎと同じ名。こんな偶然があるだろうか。もしかしなくともとんでもないものを掘り起こしてしまったようだ。 今日何度吐き出したかわからないため息をまた一つ、忍がついた時だった。生徒会室の扉がゆっくりと開く。 「あれ?早いね」 顔を出したのは奈央だった。今一番顔を合わせるのが気まずい相手の登場。忍は動揺を隠すように、机に放り投げた眼鏡を掛け直した。 葵が金に困っているのであれば、自分でも力になれるかもしれない。そんな期待をもとに、友人と交わした“葵のことを勝手に調べない”という約束を破ってしまったのだ。 奈央がそれを知ったらきっとひどく怒るに違いない。 「あぁ、一ノ瀬の処遇のことで少し、な」 そう誤魔化せば、奈央は納得した表情を浮かべた。だがすぐに彼の形の良い眉が不快そうに歪められる。一ノ瀬が起こしたことを連想してしまったのだろう。 普段は櫻と一緒に奈央をウブだと言ってからかっているが、今回ばかりは奈央に共感できる。

ともだちにシェアしよう!