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act.7昏迷ノスタルジア<33>

* * * * * * 時間だけが記載されたメッセージ。有無を言わさぬ、一方的な待ち合わせの約束だ。未里は手元の携帯を見下ろしながら、この先の展開を考え、身震いした。 一昨日の夜、未里からの手紙によって暴走した一ノ瀬が起こした事件。あれから一ノ瀬は“病欠”で休み続け、葵も登校していない。学園内に真相は広まっていないものの、生徒会はまず間違いなく事態を把握しているだろう。 一ノ瀬の計画が若葉によって阻止されたのを見届けた未里は、葵の筆跡を収集するために手に入れた生徒会の議事録や、ノートの類を全て処分した。パソコンのデータももちろん消去済み。仮に疑われたとて、証拠は何もない。 それに万が一未里が黒幕だとバレたとしても、実行犯は一ノ瀬。未里は一ノ瀬をからかおうとしただけ、その言い分で通せば、そこまで大きな処分は食らわないはず。 そう自分に言い聞かせて平静を装っていたが、未里を付き纏う不安はどんどん大きくなってくる。駄目押しがこの連絡だ。 葵を倉庫から救い出した男、九夜若葉。 彼とは未里側が金を払い、抱いてもらう関係。気まぐれに呼び出され、ただ欲望の捌け口として乱暴に使われる。今夜も若葉の相手として、選ばれただけなのかもしれない。だが、他に意図があるように思えてならなかった。 校則や常識の範囲内での処分しか下せないであろう生徒会よりも、若葉のほうが余程恐ろしい。彼が人の弱みを握ったら、骨までしゃぶりつくす男であることを知っているからだ。 念の為、いつものようにシャワーで体を清めてから寮内にある若葉の部屋に向かう。約束の時間は間も無くだ。 もしも脅されたならば、未里の身を守るための保険が必要。震える手で自身の携帯のボイスレコーダー機能をオンにし、ポケットに忍ばせると、未里はようやく目の前の扉をノックする決心をつけた。 返事は当たり前のようにない。それも常のこと。ゆっくりとノブを回せば、やはり鍵はかかっていなかった。 最低限の物しか置かれていなかったはずの若葉の部屋は、いつのまにか少し私物が増えたように見える。見覚えのない衣類やスニーカーが目についた。だが、相変わらずカーテンが付けられていないせいで、部屋全体が殺風景な印象を与える。

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