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act.7昏迷ノスタルジア<39>
「ま、あんま気にすんなって。外部生に冷たいからさ、このガッコ。俺は中等部から入った組だけど、最初皆冷たすぎてびっくりしたもん」
どうやら小太郎は分かっていて、あえて話をはぐらかしたらしい。クラスの中心人物である彼ですら、入学後しばらく学園の空気に馴染めなかったと聞いて不思議と安堵させられる。
「俺は野球部の奴らが優しかったから、ラッキーだったなぁって思う」
「“弱小”野球部な」
「あ、ひでぇ。でもマジで弱いんだよ。練習試合ですら今年一勝もできてなくてヤバイ。なんでだろ。毎日朝練までしてんのに」
爽が憎まれ口を叩いても、小太郎は気にすることなく朗らかに笑ってみせる。彼のこの大らかさが自然と人を集めるのだろう。
「そういや絹川は?部活入んないの?」
喋りながらも、小太郎の手は止まらない。まだ爽は一つ目を齧っている最中だというのに、すで二個目の包装を開け始めている。午前中の休み時間中にも、おにぎりを食べていた姿を見た気がする。その食欲は“朝練”のせいなのだろうか。
「こないだギター持ってんの見かけたよ。あれ爽のほうっしょ?」
「見分けつくわけ?」
授業中座っている座席を見れば、目の前にいるのが爽であることは迷いようがないだろう。でもただ姿を見かけただけでは、小太郎に分かるわけがない。
「見分けつくようにしてくれてるじゃん。右が聖で、左が爽、だろ?そのぐらいはさすがに覚えたよ」
小太郎が指し示したのは、髪に入れているメッシュ。シンメトリーを強調したいという母の希望と、ブランドのイメージから選んだ髪型だったが、違いをわかりやすくする手段として受け取られているとは思わなかった。
「軽音部の奴らも気にしてたよ。部員募集中だってさ。爽、入部したら?」
ほんの少し前まで名字で呼んできたくせに、ごく自然に“爽”と呼び捨てにされた。彼の距離の縮め方も爽を驚かせる。でも不愉快ではない。
「知り合いいんの?」
「うん、何人か。紹介しよっか?つーか、今なら部室いるかも。行く?」
「いやいやいや」
三つ目のパンを咥えながら立ち上がろうとする小太郎を、爽は慌てて引き止めた。聖抜きで、彼とこうして会話するのすら爽にとっては想定外のこと。さらに初対面の生徒らと絡むなんて展開が早すぎる。
「見た目いかついのもいるけど、悪い奴らじゃないよ?」
「だとしても、何話せばいのかわかんないし」
「えーそんなの、好きなバンドの話とか、何のパートやりたいとか、そういうのじゃん?俺はそのへん詳しくないけどさ」
誰とでも仲良くなれる性質の小太郎からしたら大したことではないのだろう。でも爽にはハードルが高い。
そもそもまだギターは初心者のレベル。入部するとなれば腕前は当然披露させられるだろうが、ある程度上手くなるまでは御免だった。勉強もスポーツも何事も器用にこなせるように見られたいのだ。かっこ悪いところを自ら晒したくなど無い。
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