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act.7昏迷ノスタルジア<40>
「もしや人見知り?生徒会と仲良いのに?」
「葵先輩は特別。ほかは別に、仲良くないし」
生徒会の手伝いをすることは認められたが、都古が謹慎を食らった事件も爽たちだけ置いてきぼりを食らったし、先日の葵の件もそう。悲しいけれど、まだ距離のある関係である。
「そう?でも副会長とも仲良くない?」
「あぁ……あれは、俺が音楽室に押しかけてるだけで、仲良いわけじゃ」
「音楽室?」
放課後、櫻の借りている音楽室の一角を借りてギターの練習に励んでいる話かと思ったが、小太郎が言いたかったのはそうではないらしい。
爽たちが生徒会の仕事に携わり始めたことはすでに学園内に広まっている。それをよく思わない生徒たちがいることも爽は把握していた。小太郎も学内で爽たちを批判する声を聞いたことがあるのだと、少し気まずそうに教えてくれた。
「さすがに止めようかなって思ったとこに副会長が通りかかってさ。怒ってたよ」
「……まじで?あの人が?」
「うん。だから、副会長にも可愛がられてんだなーって思ってた」
はじめから爽たちに比較的好意的に接してくれる奈央ならまだしも、あの櫻が、なんて意外すぎる話である。面倒だから、と揉め事には見てみぬフリをしそうなものなのに。
生徒会の中で、爽たちに対して一番冷たかったのは櫻だ。“クイーン”という呼び名に相応しい、高飛車で傲慢な雰囲気を纏う櫻は、爽にとっても少し苦手な存在だった。
でも彼と会話する機会が増えると、その印象は変化していった。元々きっぱり断られる覚悟で乗り込んだ音楽室で、櫻は思いの外、爽の相手をしてくれた。言葉尻は厳しいけれど、独学で楽器の演奏を学ぼうとする爽の気持ち自体をないがしろにすることもしなかった。
完全な“仲間”には入れていないものの、少なくとも櫻にとっては身内に近い存在ぐらいには昇格できたのかもしれない。
「なんか癪だけど、ちょっと元気でたわ。生徒会がんばる」
「おう、それはよかった。けど、軽音部は?どうする?一番喋りやすそうなやつ、紹介しよっか」
どうやら小太郎は真剣に入部を薦めたいらしい。部活に入ったおかげで学園に馴染めたという実体験のおかげからのお節介なのだろうか。
「いいよ、自分でなんとかする」
「遠慮すんなって、人見知りなんだろ?」
「……竹内のそのたまに出るムカつく感じなんなの?」
「え、ムカつかれてんの、俺」
心外だとばかりに元々丸っこい目を更に丸くする小太郎だったが、爽とこんなやりとりを交わすことすら楽しそうに見える。
「今度聖とも飯食いたいなぁ」
「うちのお兄ちゃん、ひねくれ者で厄介よ」
基本的な性格自体はよく似ているが、人当たりが良いほうなのは間違いなく自分だと爽は自負している。積極的にトラブルを起こそうとする聖を諌めているのはいつも爽だ。
だから聖との交流を期待している小太郎に、釘を刺す。でも彼は全く気にしない素振りで、人懐っこい笑顔を絶やすはことなかった。
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