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act.7昏迷ノスタルジア<49>

* * * * * * 一時的な来客であっても、人を見送るのはやはり寂しい気持ちになる。小さくなる宮岡の影に手を振りながら考えるのは、次に彼と会えるのはいつになるのか、ということ。 「手貸してもらってもいい?歩く練習したいんだ」 宮岡の姿が見えなくなると、隣に寄り添っていた都古が当たり前のように抱き上げてくれようとする。それを葵は拒み、彼の腕に自分の腕を巻き付けてみた。捻挫した部分がぐらつかないよう、宮岡がくれたサポーターは既に装着済みだ。 都古は心配そうに見下ろしてきたものの、葵が望むならばと歩調を合わせて玄関へ導いてくれる。都古を支えにするとはいえ、出来るだけ左足に体重を掛けずに歩くのは、予想以上に難しい。足が地面に着くたびに、ズキンと刺すような痛みが体を走り抜けるのも辛かった。 もしかしたら葵が痛がる様子が伝わったのかもしれない。玄関の扉を開けるとすぐ、サンダルを脱がせるついでのような仕草で、都古がもう一度腕を伸ばしてきた。 「段差、危ない」 玄関先だけではなく、自室に戻るためにはそれなりの段数がある階段を上らねばならない。都古の言い分は正しい。 「三歩ぐらいしか練習できなかった」 大人しく彼の肩口に腕を回しながら、ほとんど無意味だった挑戦への愚痴を零すと、都古が小さく笑ったのが振動で分かる。 「みゃーちゃん、疲れない?」 「全然」 怪我をして以来、日中の移動のほとんどを都古に頼り切っている。葵の心配をよそに、都古はそれが嬉しくてたまらない素振りを見せるし、言葉通り階段を上る足取りは軽やかだ。 昼食として出されたかぼちゃのスムージーだけでなく、宮岡の手土産のプリンまで食べたばかり。ベッドに下ろされた葵は、重たく感じる体をそのままシーツに沈ませた。 「寝る?」 「んー、眠くはないかな」 少し横になりたいだけ。そう主張したつもりだったが、都古はすっかりその気になって葵にタオルケットを被せ、そして自分も隣に滑り込んでくる。昼寝が大好きな彼らしい無邪気さが可愛いけれど、以前のように葵に覆いかぶさったり、キスを求めたりしてこないことに胸がちくりと痛む。 布団の中で向き合う体勢を取ったはいいものの、それ以上都古から触れてこない場合、葵からどう触れていいのかが分からない。 肌蹴た浴衣の襟元から覗く青白い肌。連休の終わりにそこに浮かべた葵からの“好きの印”は、元々薄かったこともあり、もうすっかり消えている。自分の体に残る痕は早くなくなってほしいというのに、都古との思い出が跡形もなくなったことに気が付くと、不意に切なさが込み上げてくる。覚えのない感情だった。 「なに?」 葵の視線に気が付いた都古が、不思議そうな顔をした。 「消えちゃったな、って」 視線の先を示すように指でツンと都古の首筋をつつく。指先から伝わる体温は葵よりも少しだけ低い。

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