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act.7昏迷ノスタルジア<59>

「へぇ、都古くん排除すんのやめたの?謹慎中に都古くん出し抜いて葵ちゃんとエッチしようって企んでたくせに」 「は?お前、場所考えろよ」 教室でする話ではない。京介が慌てて周囲を見回せば、いつのまにか自分達以外の姿はなくなっていた。七瀬もそれが分かっていて発言したのだろうが、それにしても、だ。 「仲良くする気になったんだ?」 「つーか、今は揉めてる場合じゃねぇしな。俺はクラスちげぇから都古に付いててほしいとは思うし」 都古抜きで葵と過ごしたいとは思う。京介が登校しているあいだずっと葵の傍に居られる都古が憎たらしくもある。けれど、葵を守ってやるには彼の存在が不可欠ではあるのだ。今日珍しく校内で若葉の姿を見かけたから余計にその気持ちは強まった。 「七さ、先輩に襲われかけたことあるじゃん?」 唐突に七瀬が口にした中等部時代の出来事。聞き捨てならなかったのか、無言でペンを走らせていた綾瀬の手が止まる。 「すぐ逃げたけどさ、やっぱ触られて気持ち悪かったし、多少は怖かったわけよ」 「……ごめん、七」 「あぁ、いーのいーの。綾を責めたいわけじゃないよ。ちゃんと京介っちとボコってくれたからそれで満足してる」 その日、日直の当番だったが故に七瀬を一人待たせていたことが直接的な要因ではあった。それを思い出して苦しそうな顔をする綾瀬に対し、当の七瀬はあっけらかんと笑ってみせた。 当時のことは京介もよく覚えている。 “京介っち、手貸して” シャツのボタンを数個飛ばした状態で走ってきた七瀬の姿で、すぐに何があったかは察した。悪事を働こうとした上級生を率先して殴りにいったのは京介ではなく、ブチ切れた綾瀬。京介は人を殴り慣れていない綾瀬のフォローをしてやったまで。 そもそも、一番に暴れ回っていたのは被害者である七瀬だったような気もする。どこからか調達した金属バッドで、迷いなく上級生の頭部を狙いにいった彼を止めた覚えもあった。 「何が言いたいかっていうとさ、七でもそうだったんだから、葵ちゃんはよっぽどだろうなって。されたことのレベルも違うし、何も理解してないじゃん?大丈夫なの、その辺のケアは」 頬杖をつきながらこちらを見つめる七瀬の姿には、葵を純粋に心配する色が見えた。 大丈夫と返せたら良かったのだが、七瀬の心配はずばり的中していた。可愛い顔をしていながら、彼はやはり随分と鋭い。

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