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act.7昏迷ノスタルジア<61>

「でもそれ、皆が悪いと思うよ。キスするのも、エッチなことするのも、葵ちゃんのこと適当に言いくるめてしてたわけでしょ?自分が触りたいからってさ。葵ちゃんも嫌がってはなさそうだったから放っておいたけど、どうかと思ってたよ。順番が違うじゃん?」 また葵に向けて理不尽な怒りを湧きあがらせようとしていた京介に、七瀬はきつい言葉を浴びせてくる。正論だ。 京介に至っては葵を救う“おまじない”と称して、長年騙しつづけている。さすがに彼らにその秘密を打ち明けてはいないが、聡い彼らはそれとなく勘づいてはいるのだろう。 「俺も七に同意。俺が今の西名の立場だったら相当しんどいとは思う。けど藤沢のこと、責めるような言動はとらないでほしい」 大切にしたいという思いとは裏腹に、葵にぶつかり、そして後悔する京介の姿を彼らには何度も見られている。だからこそ、こうしてくどいほど言い聞かせてくるのだ。 「……わかってるよ。そもそも俺が悪いっつーのもわかってる」 自分の欲望を優先して、葵を騙し続けたことも。そのせいで葵があれほど無防備になってしまったことも。危険だと認識していながら、一ノ瀬を排除しきれなかったこも。 京介が何か一つでも他の選択をとっていたら、結果は異なっていたはずだ。 「拗ねちゃった。おーい、元気出せー」 あれからずっと襲いかかる自己嫌悪。押し潰されそうになる感覚に身を任せて机に突っ伏せば、七瀬から激が飛んでくる。 「葵ちゃんがなんで怖がったのか。話聞いた上でさ、全部訂正してあげなよ。葵ちゃんだって、待ってるかもよ。京介っちがもっかい抱き締めてくれるの」 あれほど正論で京介を責めたくせに、今度は期待させるような言葉を投げて慰めてくる。一体彼は京介をどうしたいのだろうか。 葵も待っている。そんなことを一度想像してしまうと、早くあの存在を自分の腕の中に閉じ込めておきたくて仕方なくなる。 「都古が邪魔。お前ら、一日でいいから引き取って」 「えーやだよ、都古くん居たら綾といちゃいちゃ出来ないじゃん」 「いつもしてんだろ」 誰がいようとお構いなしなくせに、こんな時だけ都合がいい。 「ていうか、別に都古くん居てもいいじゃん。葵ちゃんがその調子じゃ、都古くんのことだって避けてるわけでしょ?三人で話したら?」 「……正気か?」 会話の流れの中で、葵との触れ合いを仕切り直したいと思っているのだ。その場に都古が居ながら出来るわけがない。 「結構真面目に言ってるよ。お互いの目があれば、葵ちゃん相手にやり過ぎることもなさそうだし。ま、京介っちはヘタレだから最後までヤれないって信じてるけどね」 「んなこと信じてんなよ。マジでムカつくな」 顔を上げて睨みつければ、七瀬はとびきり可愛い笑顔でウインクを投げてきた。本当にふざけた友人だ。更に厄介なのは、そんな彼を見て“可愛い”なんて溜息を漏らすもう一人の友の存在。 だが、一番に腹が立つのは、七瀬の提案が案外悪くないと思い始めてしまっている自分に対して。 これ以上、葵と不自然な距離を取り続けるのはもう限界だった。

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