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act.7昏迷ノスタルジア<69>
* * * * * *
家族全員揃っての夕食はやはり賑やかで楽しい。陽平は今日一日家で仕事をしていて、冬耶の帰りも早かった。京介も学校から真っ直ぐに帰ってきてくれる。だから実現したこと。
毎日こうであったらいいのに。そんなことをつい、葵は考えてしまう。
だが、夕食が終わったあとは家族団欒の時間をのんびり過ごすわけにはいかない。試験に向けての勉強に取り組まなければいけないからだ。
結局、あのあと都古とベッドでくっついている内に眠気が訪れてしまい、冬耶が帰ってくるまで長い昼寝をしてしまったのだ。ただでさえ不安な試験に対して、焦る気持ちが膨らんでいく。
「すぐ、戻ってくる」
葵が勉強机にテキストを広げ始めると、着替えを片手に抱えた都古が背後から顔を出してきた。彼は夕食後一番にシャワーを済ませ、その後の時間は常に葵と居られるように努めてくれている。
「ちゃんと湯船で百まで数えなきゃだめだよ」
「……わかった」
葵が注意しなければ、彼はものの数分で出てきてしまいかねない。都古は少しだけ不服そうな顔をしてみせたけれど、言いつけを守ると誓うように頷き、そして部屋を飛び出していった。
都古が階段を駆け降りる音を聞きながら、葵はもう一度机に向き合う。友人たちが用意してくれるノートは大きな助けになっているが、直接授業を受ける時と比べれば内容の理解にはどうしても時間がかかった。
「……んー」
「それ、数学?綾瀬に電話すっか?」
教科書とノートを何度も見比べて唸っていると、この部屋にいたもう一人の人物、京介から声が掛けられた。振り返ると、葵のベッドを背もたれに携帯をいじっていた彼がこちらをジッと見つめている。どうやら悩んでいる姿を観察されていたらしい。
「ううん、もうちょっと考えてみるから、大丈夫」
「頼っても綾瀬は迷惑だなんて思わねぇよ」
それはきっとその通りだと思う。葵の心配を見越して、ノートにも付箋が貼られていた。綾瀬と、そして七瀬からのメッセージ。質問だけでなく、単なるおしゃべりでもいいから電話を待っていると言ってくれている。
それでも、もう少しぐらいは甘えずに頑張りたい。
「なんかそうやって泣きそうな顔して机向かってんの見ると、昔思い出すな」
少し呆れたような、でもどこか優しさを感じる顔で京介はそんなことを言ってきた。彼の言う“昔”に心当たりはある。初等部の頃の話だ。
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