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act.7昏迷ノスタルジア<85>

* * * * * * 京介と都古。二人に与えられたキスによって熱のこもった体は、いつもよりも温度を下げたシャワーを浴びてもなかなか落ち着いてはくれない。 「……んッ」 泡立てたスポンジを肌に滑らせる、ただその刺激でくすぐったさだけではない妙な感覚が体を走り抜ける。二人からはキス以外のことはされていない。それなのに下腹部に視線をおろすと、少しだけ芯の通った部分が目に入った。 “葵ちゃんが気持ち良いって感じたら、ココが反応するの” 櫻に教えられたことを思い出す。そうして葵の手を引き、強引に触らせられもした。体を早く元通りにさせたいというのに、そのあと櫻に何をされたかをはっきり蘇らせてしまい、体は醒めるどころか火照りを増していく。 ガラス一枚隔てた向こうで待っている冬耶に助けを求めようか。そんな考えが頭をよぎるものの、この現象をなんと説明すればいいのか分からない。打ち明ける恥ずかしさのほうが耐えられそうになかった。 幸い、どうしたら楽になるか。その原理はなんとなく理解し始めていた。自分一人で出来るか自信はないが、膨らむ箇所にそっと指を伸ばしてみようとする。 だが、泡の伝う肌に浮かぶ傷跡が目に入り、嫌でもあの夜を思い出して体が硬直する。 “あぁ、すごく可愛い。このまま食べちゃいたい” 言葉通り、恍惚とした表情で彼の唇に飲み込まれたこの場所。あの時感じたのは確かな嫌悪感。薬を嗅がされる前、自分が一ノ瀬に触れられて吐き気すら催した記憶が蘇ってきた。 舐められただけではない。そこには手首や足首と同じ、黒革の枷を嵌められた。根元をきつく締め上げる様を、しっかりと葵に見せつけてきたから嫌でも覚えている。 そこを戒められたらどうなるか。初めは分からなかったが、すぐに意味を理解させられた。火照った体が何度限界を訴えても、決して熱を吐き出せない苦しさ。四つん這いの姿勢で毛布に擦り付けようと試みた自分の行動も断片的にだが、頭に浮かんでくる。 今も思い出すだけで体が震える。宮岡の言う通り、好きな人から触れられるのとは全く違った。早くこの嫌な感覚を拭い去りたい。京介や都古の腕の中に戻って、彼らの温もりで慰めてもらいたくて仕方がない。そこまで考えて葵は妙な願いを打ち払うように頭を振った。 「あーちゃん、大丈夫?」 しばらくシャワーの水しぶきを浴びたまま、身動きを取らなかったからだろう。ガラスの向こうにいる冬耶から声が掛かった。 「うん、大丈夫。もうすぐ出るね」 葵が慌てて返事をすれば、安心した彼の気配が少し遠ざかったのが分かる。嫌な気分が勝ったからか、いつのまにか反応は治まっていた。今のうちに出なければ、またいつ蘇ってくるとも限らない。葵は急いで体についた泡を洗い流し、再び冬耶に声を掛けたのだった。

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