977 / 1603
act.7昏迷ノスタルジア<88>
葵の反応を見て、京介からタオルを受け取った都古もうなじから肩甲骨にかけてのエリアに濡れた布を滑らせてきた。直接指でなぞられるよりはマシだが、否が応でもくすぐったさは感じる。
堪えるように目の前の京介の肩を掴めば、頭を撫でて宥められる。
しばらくそうして心地よさに身を任せていると、段々とタオルの温度が下がってきたことが分かった。二人も葵の身震いに気が付くなり、即座に手を止めてくれる。
「寒い?」
「これじゃ逆効果だな」
冷めたタオルが二人の手から離れ、フローリングに投げ捨てられるのを見届けた葵は、これで終わり、そう思って腰元に留まるパジャマに手を掛けようとした。でもその手はすぐに京介に捕まる。
「何してんの、葵」
「え、だって、終わりでしょ?」
「まだ他にもあんだろ?全部見せてみ」
「他にもって?」
葵の問いに答える代わりに、無言のままの都古の指がズボンのウエストをなぞってくる。布を纏ったままの下半身のことを指しているのだとすぐに分かった。確かにそこにも痕は残っている。でも視界に入りやすい箇所ではない。だからしてもらわなくて大丈夫だと、そう思っていた。
「そっちは平気。全然ないから」
「お前さ、下手なんだから誤魔化すのやめとけ」
「アオ、見せて」
逃げ腰の葵を二人は落ち着いた様子で宥めてきた。視線だけで示し合わせたのか、都古がウエストに回した手に力を込め葵の体を浮かせると、京介がタイミング良く、するするとズボンを抜き取っていく。
「や、待って、お願い」
慌てて膝を閉じて抵抗すると京介の手は止まるものの、すでに太腿は晒されてしまっている。白い内腿にぽつぽつと広がるのは紅い吸い跡だけでなく、ところどころ歯型らしいものも浮かんでいた。
「これで全然ないって?どこかだよ」
「全部、消毒しよ」
生々しい痕を直視したくなくて思わず顔を背ければ、京介は叱るように内腿についた痕の一つをきゅっと摘んでくるし、都古は“全部”の言葉の意味を示すためか葵の胸から腹にかけてをするりと撫で上げてくる。
「でも……もうタオル、冷めちゃったし」
温めるものがない。そう主張してみせたが、剥き出しの肩口を唇でくすぐってきた都古の行動で他の方法を思い知らされる。
「アオ、いや?」
「怖がらせたいわけじゃねぇから。嫌ならはっきり言えよ、葵」
葵のために提案してくれていること。それが分かっているから拒絶など出来ない。でも下着だけを身につけた無防備な状態で彼らに挟まれている、そんな状況にどうしようもなく胸がざわめいてしまう。
「いや、じゃなくて。こわいわけでも、なくて」
「うん、じゃあ何?どうする?」
また京介は葵に選択するよう導いてくる。正面から真っ直ぐに見つめる茶色い目。
「全部、任せて。アオ」
耳元で囁いてくる低く、けれど澄んだ声。
頭の奥がくらくらと痺れていく。どうしたらいいのか、訳も分からずただ二人に頷きを返せば、それぞれから順番にキスを落とされた。
ともだちにシェアしよう!