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act.7昏迷ノスタルジア<90>

「……変になっちゃいそ、だから」 「変ってなに?」 あの現象をなんと言語化すればいいのか分からない。だから自分に出来る最大限の表現をしてみせるが、それでは許してもらえないらしい。 「アオ、教えて」 庇ってくれると期待して都古に視線を投げても、彼もまだ続きを望んでいるようだ。 「熱く、なっちゃうの」 「だからやめたいってこと?温めてんだから別におかしくねぇだろ」 「そ、じゃなくて……苦しい、から」 こうして会話を交わしている間は肌に触れられていないというのに、鼓動は落ち着くどころか更に速まっていく気すらしてしまう。 「も、やだ」 端に寄せられたタオルケットを引っ張り、彼らの視線から逃げるように潜り込む。その行動を二人共止めては来なかった。 「大したとこ触ってねぇのにな」 「……煽ってた、くせに」 「は?それはお前もだろ。つーか、どうする?こいつ、多分あん時からずっと溜め込んでるっぽいけど」 こいつ、と言ってタオルケット越しに京介が葵をぽんぽんと叩いてくる。二人が自分について会話しだしたことは分かるが、何を意味するのかが分からない。 「俺が、する」 「なんでだよ、譲るわけねぇだろ」 京介が声を荒げたのが不安になり、少しだけ顔を覗かせるとすぐに二人と目が合った。 「出てこい、葵」 「おいで、アオ」 二人の纏う雰囲気が先程までとは異なっていた。葵が戸惑っている内に剥ぎ取られたタオルケットがベッド下に放り投げられる。 「ちょっと待って」 乱暴なわけではもちろんない。蹲っていた葵の手を引き、再び中心に招いてくる二人の手は相変わらず優しい。けれど、有無を言わさぬ強さがある。 「葵、そのまんまじゃきついだろ。全部見せてくれたら、楽にしてやるから。あんま怖がんなって」 少し前とは反対に、葵を抱きすくめるのは京介になった。体格の良い彼にもたれ掛からされると、全身が丸ごとすっぽりと覆われ不思議なほど安心させられる。耳元で囁かれる口調も、二人きりの時のように穏やかだから余計かもしれない。 「いい?アオ」 葵の足元でジッとこちらを見つめてくる黒い瞳。都古は葵から許可が下りるまでは、あくまで動くつもりはないらしい。 裸なんて二人には散々見られている。それにこれは怪我の確認で、恥ずかしいことじゃない。部屋だって最小限の灯りしか点いていない。 断る言い訳を浮かべては、葵はそれを自分で打ち消していく。 あの日からずっと体の奥底で燻り続けている熱に彼らが気付いたら、きっと手を差し伸べてくれる。それを自分はどこかで期待してしまっていた。それほど苦しくて堪らなかったのだ。 「きらいに、ならないで」 身を委ねる代わりに口にしたお願い。二人は当然だと笑って、またキスを与えてくれる。 だから葵はきつく閉じた脚の力を抜いて、目の前の都古に手を伸ばした。

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