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act.7昏迷ノスタルジア<95>*
葵が一ノ瀬の記憶に囚われ怯えていることはきっとバレていたのだろう。だから全ての痕跡を、京介と都古、二人が触れ直し、新たな記憶を植え付けてくれる。
葵の意思を確認し続けたのも、本当に葵が怖がる素振りを見せたなら止めるつもりだったのかもしれない。
「これで足りないなら、忘れるまで何度でもしてやる」
「んっ……あ……あぁ、あッ」
溢れる蜜を塗り込むように、ぐちぐちと先を指の腹で摩られる。ついさっき吐き出したばかりの熱がまた、せりあがってくるのを感じた。
もう少し京介に掛けられた言葉の意味を考えたい。そう思うのに、再び昇りつめようとする体がそんな余裕を完全に失わせてくる。
「あっ……んん!」
甘い疼きが支配するのは下腹部だけではない。背後から葵を抱き締め、首筋にキスを落としてくる都古の存在もまた、葵をもう一度深い場所に導こうとする。
優しく撫でるだけだったというのに、いつのまにかさらに尖らせようと胸を摘み上げ、捏ねてくるのだ。
「今度、舐めるね」
「あぁ、ん……ん」
欲張りな猫らしくそんな宣言をされると、それだけで腰が震えてしまう。“今度”ではなく、“今”欲しい。そんな言葉が思わず口から出てしまいそうになるが、いよいよ視界がチカチカと点滅し始め、ただ甘い嬌声だけが溢れてくる。
「んッ……んんーーーっ」
再び唇が塞がれ、そして京介の指が作る輪が一層激しく上下する。ほどなくして腹にとぷりと熱い飛沫がかかった。同時に上がった叫びは、強く吸われた舌と共に飲み込まれる。
瞼だけではない。もう身体中が重たく痺れ、京介の体に凭れたままちっとも動かせそうになかった。
「もういいよ、葵。おやすみ」
“おまじない”の時と同じ。京介から褒めるように髪を撫でられ、囁かれる。頷きだけを返せば、そのままシーツにゆっくりと体が沈められた。
どちらとも分からぬ唇が、額や頬に落とされる感覚だけが葵を現実に引き留める。離れてほしくなくて伸ばした手はそれぞれに握り返された。
大きくて無骨な手は京介で。筋張っていてひんやりとするのは都古の手。目を瞑っていても分かる、大好きな二人。この上ない安心感に包まれた葵は、ようやく意識を手放したのだった。
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