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act.7昏迷ノスタルジア<98>
「もっと違う形で九夜さんのこと遠ざけられないかな?また謹慎にするとか、それこそ退学、とか」
幸樹を戦わせたいわけではない。できれば正面から争うような形を取らずに若葉を退けたい。奈央がその思いを素直に口にすれば、幸樹は困ったように眉をひそめた。
「若葉、教室では大人しくしてたんやろ?授業聞いてたかどうかはともかく。どんな理由で罰与えんの。藤沢ちゃんのことも表立って咎めるわけにはいかんやろ」
「それは、そうだけど……でも、今まで彼がやってきたことを考えたらとっくに退学でもおかしくないよ」
「奈央ちゃんの言うことは間違ってない。せやけど、分かるやろ?西名さんが掛け合っても若葉を追い出せなかったのがなんでか」
学園のトップに君臨していたあの冬耶ですら、若葉の扱いには苦戦していた。その理由をはっきりと聞かされたことはなかったが、確かに予想ぐらいはつく。
「若葉んとこは、人の弱み握って金毟り取る商売しとるからな。学園のおっちゃんらも色々と表に出たらまずいこと掴まれとるんやろ」
だから若葉のやりたいようにさせるしかない。そんな言い分がまかり通ってしまうことを、簡単に納得するわけにはいかない。顔にそれが出ていたのだろう。幸樹は肩をすくめ、苦笑いを浮かべた。
「とりあえず、奈央ちゃんと月島は自分の身守ることに専念しとって」
「僕と櫻?」
「若葉と同じクラスやろ?生徒会ってだけで若葉のターゲットにはなりやすいし、気ぃつけて」
大丈夫、そう言って即座に幸樹の言葉を否定しかけたが、今日若葉と目が合ったことを思い出して奈央は口を噤んだ。どういった目的の標的にされるかはさておき、注意するに越したことはないだろう。
「幸ちゃんって、九夜さんのことは前からよく知ってるんだよね。どんな人?」
そもそも若葉はなぜ留年してまでこの学園に執着するのか。彼は何を考えているのだろうか。若葉自身のことが気になって、奈央は思わずそんなことを尋ねてしまう。
「んー?見たまんまのヤバい子よ。金抜きでフツーに会話できんのは俺か京介だけちゃう?」
「西名くん?」
幸樹は分かるが、京介の名が出てきたのは意外だった。
「徹さんみたいな側近がもう一人欲しいらしくてな。京介が中坊の頃から目ぇ付けてんの、あいつ」
奈央の記憶の限り、京介は同学年の中でもずっと頭一つ分抜けて長身だったし、ガタイも良かった。おまけにクラスメイトと喧嘩をして負け知らずだという噂が広まり、そのせいで上級生からもよく絡まれていたようだ。
それだけ目立つ存在ならば、若葉の目にも当然留まりやすかったのだろう。
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