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act.7昏迷ノスタルジア<99>
「京介に声掛けて煙草、酒、その他色々悪いこと仕込んだのが若葉っちゅーわけ。藤沢ちゃんへの初恋拗らせて思春期真っ盛りだったから、京介もホイホイついてっちゃって。だから一時期結構つるんでんねん、あの二人」
「そうなんだ、知らなかった」
若葉、と呼び捨てていたから顔見知りらしいことは察していたが、そこまでの仲とは思わなかった。どうやら若葉は兄弟どちらともと深い因縁があるようだ。
「あん時はフツーに仲良さそうやったで。少なくとも、京介のほうは若葉に懐いてたな。俺はやめときーって止めたんやけどな」
きっとその忠告は無視されたのだろう。幸樹の笑い方で当時の成り行きを察した。
「西名くんは、冬耶さんと九夜さんが仲悪いって知らなかったのかな?」
「いやー知ってたやろ、そりゃ。あんなバチバチしとったのに。若葉と仲良くしたんは、デキるお兄ちゃんへの反抗でもあったんちゃう?」
言葉も態度もよろしくはないが、京介が冬耶を兄として慕っていることはよく分かる。でも、彼が悩みを抱える理由も奈央には理解できる気がした。あれだけのカリスマ性を持つ存在が兄として傍にいる。心強さはあるだろうが、反面、コンプレックスにも感じるに違いない。
「若葉と遊んだのはいい気晴らしやったんかな。藤沢ちゃんとの関係も色々悩んでたっぽいし。ま、それは今もやろうけど」
今でも時折思い出すのは、悪夢にうなされた葵と、それをあやし慣れた京介の姿。あれを見たら、葵が何かに囚われ続け、苦しんでいることがよく分かった。だから京介が未だ幼馴染の一線を超えられないのは、単に奥手なわけでも、葵が恋愛感情に疎いだけでもないのだろう。
「なぁ、奈央ちゃん。やっぱ俺、サイテーやと思う?」
しばしの沈黙の後、幸樹はマットレスにごろんと仰向けに転がり、そんなことを聞いてくる。彼が時折見せるネガティブで繊細な一面。大抵は幸樹の考えすぎだと呆れるような内容なのだが、彼が胸の内を晒せる相手などごくわずか。
だから奈央は彼のほうに体を向け、話を聞く姿勢をとってやる。
「あいつがずっと好きだったのは分かってる。うまくいけばいいとも思ってた。せやけど、毎回可愛いところ惚気られてみ?気になるやん、そんなん」
どうやら友人の片想い相手に自分の心も奪われた。そのことに苦しんでいるらしい。悩んでいる幸樹には悪いが、あの京介が葵のことを嬉々として惚気る姿が想像できなくて、笑ってしまいそうになる。
「藤沢ちゃんとは直接関わらんとこって、気ぃつけてたのに」
「……もしかして、だから生徒会くる頻度下がったの?」
授業はサボりがちではあったが、生徒会には比較的顔を出していた。そんな幸樹が昨年度の途中から極端に出席率が悪くなった謎がようやく解けた。本当に彼は臆病だ。
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