996 / 1598

act.7昏迷ノスタルジア<107>

* * * * * * 五日後から始まる中間試験。遅くともそこまでには葵を学園生活に復帰させる準備を整えなければならない。登校はしたものの、幸樹には授業を受けるような暇はなかった。 葵の筆跡を収集し、一ノ瀬を騙せるような手紙を作る労力は相当なものだ。それだけ葵を恨む人物は誰か。心当たりならいくつかあった。 卒業した冬耶や遥を慕い続ける生徒や、現生徒会のメンバーのファン。大抵は手の届かぬ存在として騒ぐだけの無害な輩ばかりだが、中には過激な思想を持つ者もいる。数は多くないが、可愛がられる葵に対して嫉妬を募らせている生徒がいることは把握していた。 その代表格が、奈央を過剰に崇めている様子の福田未里。奈央が生徒会に所属する前から、同級生だというのに恭しい態度を取り、そこそこ値の張るプレゼントを贈り続け、暇さえあれば付き纏っていた。 奈央はいつも適当にあしらっているようだったが、はっきり迷惑だと言って遠ざけることが出来ていない。 ただそれだけなら幸樹もお人好しな奈央に呆れはするが、放っておいただろう。 だが、未里の家は表では真っ当な商売をしている体裁は整えているものの、裏ではかなり悪どいことをやっていると噂を聞く。未里自身も可愛らしい部類に入る容姿とは裏腹に、素行の悪い生徒との繋がりが多い。 何かトラブルが起きないかは常に幸樹の中で気がかりではあった。葵に対する未里の視線がいつも激しい嫉妬を感じさせる鋭いものだったことも余計に幸樹の不安を煽っていた。 朝から未里の様子を観察していたが、昼休みになっても奈央に接触するチャンスを狙う様子もなく、悪い仲間とつるむこともしない。大人しく過ごしていることが、幸樹の目には奇妙に映った。 チャイムと同時に食堂や購買へと向かい出す生徒の流れに逆らうように、人気のない方向へ向かい出した未里のあとを一定の距離を保ってつけていく。すると、思いがけない人物の元に辿り着いた。 尾行がバレないよう遠目でしか確認できないが、体育館裏の階段に座り込み煙草を吸っている赤い髪の男は間違いなく若葉だった。未里が何かを若葉に渡し、そして彼の足元に跪いたことも確認できる。はっきりとは見えないが、おそらく口淫でもさせられているのだろう。 彼らの繋がりも気になるところだが、幸樹の視界にはもう一人気になる存在の姿が見えた。そっとその背後に近づき、肩を叩く。

ともだちにシェアしよう!