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act.7昏迷ノスタルジア<110>

「別に、上野先輩に迷惑かけるつもりはないっす」 「あのなぁ、どう転んでもかかんの。絶対」 若葉を止められるのは自分しかいない。驕りではなく、事実だ。でもまだ納得がいかなそうな爽は足元の雑草をぶちぶちと引き抜いて苛立ちを表現してくる。 「大人しくしてろってことですか」 「んまぁ、すんごい端的に言うと。だって君に何が出来んのよ」 期待を持たせるようなことを言えば、彼自身を危険な目に遭わせることになる。だから幸樹ははっきりと突き放した。悔しげに唇を噛みはするが、爽には言い返す言葉が浮かばないようだ。 「お兄さんに任しといて。なんとかしたるから」 「子供扱いすんなよ。話すんじゃなかった、すげームカつく」 不貞腐れた爽は随分と直球で悪態をついてきた。でもそんなところもやはり子供っぽい。 「早く役員になって、俺が葵先輩のこと守りますから」 立ち上がってそんな宣言をした爽は、足早に校舎のほうへ去ってしまった。揉める気はなかったのだが、どうやら相当へそを曲げさせてしまったらしい。 「双子やなぁ」 爽と全く同じことを、聖にも誓われたことを思い出した。実際話してみると性格は微妙に違うと分かるが、思考回路はやはり似ているのだろう。 「うーん、逆効果やったかな」 葵に何も出来ない歯痒さなのか。焦っていた様子の爽にはもう少し優しく諭す言い方が良かったかもしれない。だが、彼と対面でしっかり話すことなど初めてだったのだから許してほしい。後輩を導くなんて真似も、幸樹はし慣れていない。 服が汚れるのも気にせず芝生に転がった幸樹は、先ほどの爽との会話を振り返る。 「“クスリ”なぁ」 気になるのは爽から聞いた未里の発言。あげるというからには、未里には悪い遊びに使える薬品を手に入れるツテがあるのだろう。どのようなものかまでは分からないが、一ノ瀬が葵に与えたものをどうしても連想してしまう。 一ノ瀬が葵の鼻先に瓶を押し付け、中身を嗅がせていたことが映像でも確認できた。性感を高めるためのそれは、一ノ瀬曰く、手紙と共に封入されていたらしい。 一ノ瀬は自分からうまく誘えない照れ屋な葵からの贈り物と認識していたが、明らかに葵を犯させるよう仕向けたものだ。 やはり未里が気になる。若葉と強く結びついていそうなことも幸樹の疑念を深めた。 出来るだけ避けて通りたかったが、若葉と会話しなくてはならないだろう。あの獣のような男を煽ることなくうまく情報を引き出せるか。さすがに幸樹も自信はなかったが、他にこんな役割を果たせる者もいない。 ──終わってるとええけど。 若葉と未里の行為など直視したくもない。幸樹は重たい腰を上げ、彼らがいた場所へと歩き出した。

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