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act.7昏迷ノスタルジア<111>

* * * * * * 「さすがビッチ、上手だね」 苦しげに呻く未里の喉奥に欲望を吐き出しながら、若葉は彼を嘲笑う言葉を口にした。 「あーあ、きたねぇな。吐くなよ」 相当奥まで差し込んでやっていたからだろう。解放されるなり地面に這いつくばり激しくえずきだした未里を横目に、若葉はポケットから新たな煙草を取り出した。 未里は家ではかなり甘やかされているらしい。想像以上にまとまった金を用意できたことを褒めるつもりで咥えさせてやったというのに、一方的に口内を犯す行為は罰になってしまったようだ。 とはいえ、慣れた体は先を期待して高ぶってもいるらしい。未里の中心がスラックスを押し上げている様子を見て、若葉はこんな提案をしてやる。 「次はいくら持って来れんの?額によっては抱いてあげてもいーよ」 搾取は始まったばかりだと思い知らされた絶望の中に、どこか期待の色を瞳に浮かべるあたり、未里も大概狂った奴なのだろう。 未里は表向きそれなりに品行方正な生徒の仮面を被り、生徒会役員の無邪気なファンとして振る舞ってはいるが、実際のところ誰とでも寝るなんて噂があるぐらいには乱れた生活を送っている。 彼が恋慕う奈央も当然その事実は把握していると若葉は思う。しかし、未里は奈央にだけは軽蔑されたくないと願っている。一ノ瀬を裏で操っていた証拠を握った若葉に服従する理由はそれだ。 「お前さ、とっくに軽蔑されてるんじゃね?」 教室で見かけた奈央は、いかにも良い育ちのお坊ちゃんという身なりをして、綺麗なものしか見てこなかったような目をしていた。未里のことなど、はなから相手にしていないだろう。それでも取り繕おうとする未里の心理が若葉にはさっぱり理解できない。 「もっとお小遣いくれるなら、お前の大好きな“奈央サマ”連れてきたげよっか?おクスリ使って抱いてもらったら?」 若葉にとって未里はただの暇つぶしと金蔓でしかない。そこにあの奈央を絡めたらもっと面白い遊びになりそうだ。そう考えて提案すると、乱れた息を必死に整えていた未里がこちらを見上げてきた。その視線が揺れている。 「奈央様には、何もしないで」 「そお?シてほしそーな顔してるけど」 言葉では綺麗事を並べるものの、きっと奈央に抱かれる自分を想像したに違いない。彼が若葉に貫かれながら、時折奈央の名前を口にしていることも知っている。本当は機会さえあればと願っているのだろう。 あの綺麗な目をした奈央がドラッグに侵され、湧き上がる欲望に負けて未里を抱く姿は若葉も興味がある。正気に戻った後、彼の目が濁るのかどうか、も。抗っても堕ちてもどちらでも愉快だ。 「クラスメイトとは仲良くしないとネ」 笑いかければ未里はまた何か言い返してこようとしたが、その前に若葉の視線が脇に逸れたことに気付いてつられるように背後を振り返った。 二人に近づいて来た大柄な男は、へらへらとした表情で軽く手を上げてくる。

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