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act.7昏迷ノスタルジア<113>

「あのな、若葉。もし藤沢ちゃんに次何かしようとしたら絶対許さん。それは伝えとく」 「なんで?あの子はお前の何なの?」 若葉が葵で遊んだとて幸樹には何の関係もない。そう言い返せば、幸樹はゆっくりと口を開いた。 「俺の一番大事な子」 さっきまでとは違う、落ち着いた声のトーンと柔らかな表情。嘘偽りなく、彼が本当に葵を大切に思っていることが伝わってきた。 「へぇ、そんなこと言われるとますます興味湧いちゃうんだけど」 「分かっとる。せやから伝え方色々迷ったけど、なーんも思いつかんから、直球で行くわ」 若葉が面白がることは想定済みらしい。そこまで覚悟されていると、逆に厄介だ。きっと言葉通り、幸樹は今後何があろうと絶対に若葉の邪魔をしてくるはず。彼に全力で来られると、若葉も無傷ではいられない。 「俺だけやない。西名さんも、京介も、藤沢ちゃんのこと傷つけたら遠慮なく来るで」 「キョウも?あぁ、そっか」 京介の名で若葉は思い出した。 冬耶の弱点とも言える葵を、本当は中等部時代に一度攫ってやろうと考えたことがあった。でも同時に自分の側近として京介も欲しかった。 葵に何かすれば、京介が若葉の側につくことは絶対になくなるだろう。だから迷った末に京介を選んだ。冬耶を屈服させるには葵以外他の方法がいくらでもあると、そう思ったからだ。 葵の幼さに惹かれなかっただけではない。きっと自分はそれ以来、無意識に葵を視界から外していたようだ。 「キョウか。やっぱいいよネ、あいつ。欲しいなぁ」 更に体格の良くなった京介のことは、未だに九夜家に引き込みたいと考えてはいる。今は顔を合わすこともほとんどなくなったが、諦めてはいない。 あの夜、若葉に掴みかかる勢いで怒鳴ってきた目も気に入っていた。 だがそこでふと若葉に疑問が湧き上がる。 「……ん?てゆーかさ、俺が葵チャンあそこから助けたわけじゃん?」 「んまぁ、そーね。助けたっちゅーか、横取りっちゅーか」 「西名が頭下げにきてもいいんじゃね?」 若葉が連れ出さなければ、間違いなく一ノ瀬に犯されていた。結果的にそれを防いでやったのだから、冬耶が若葉に礼を言いにくるべき話なのではないか。そう思えてきた。なぜか若葉が葵に危害を加えたかのように話してくるが、そもそもの前提がおかしいのだ。 「映像見たんダロ?優しくなかった?」 脱水症状を起こしかけていた葵に水を飲ませてやり、足の拘束も解いてやった。すぐに犯さず、徹に馴らさせもしたのだ。良い拾い物をして機嫌が良かっただけで、葵を労ろうとしたわけではないが、珍しい行動をとったとは自覚している。 「だから怖いねん。なんなん、あれ。チューまでして」 「可愛かったからネ」 「絶対普段せんやろ」 「さぁ、相手次第?」 行為の一つ一つに深い意味などない。だから幸樹の追及を適当にかわせば、彼は頭を抱えてしまった。 「惚れたん?」 「……は?ナニ言ってんの」 「まさか藤沢ちゃんの人たらしは若葉にまで効いたんか?」 若葉に問いかけているようで、自問自答しているようだ。だが、聞き捨てならない。

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