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act.7昏迷ノスタルジア<116>
「でも意外だな、上野があの子たちのこと気にするなんて」
今日爽と会話したからかもしれないが、それでもあまり接点のなさそうな相手を幸樹が気に掛けてやるのには驚いた。
『あれ以上拗ねさせたら暴走しそうなんで』
そう表現するからには、幸樹は彼らを拗ねさせたらしい。
彼の優しさや気遣いは分かりにくいことが多い。照れくささから、あえて無神経な言動をとってみることもある。付き合いの短い双子では幸樹の気持ちを汲み取ることは難しかったのかもしれない。
「なら上野が二人のこと連れておいで。どうせ明日来ないつもりだろ?ちょうどいい」
『……えぇーなんで?嫌やそんなん』
聖と爽をエスコートする役目を与えれば、彼からは不満の声が上がった。やはり幸樹は西名家にやってくるつもりはなかったようだ。
京介との関係が深い分、他のメンバーと比べれば葵が抱えているものの正体も大方把握はしているのだろう。あえて冬耶から聞かずとも構わないと考えている気がする。
「連絡先教えてあげるから。な?」
『その手間で西名さんが誘ったらええのに』
幸樹の訴えにも一理あるが、冬耶は彼と後輩との交流が楽しみになってきたのだから、考えを変える気はない。
「卒業までもう一年もないんだよ?せっかくだから友達増やしておきな」
『せっかくの意味がわからん』
ぼやく幸樹に、冬耶は笑いながら別れを告げて会話を切り上げた。
一階に戻る前に、冬耶は宣言通り幸樹宛に聖と爽の連絡先を送りつけてやる。嫌々ながらも、きっと幸樹はきちんと二人に声を掛けてくれるに違いない。
ついでに通話の間に届いたらしいメッセージにも目を通す。送り主は宮岡だった。中身を確認したのが葵の傍でなくてよかったと、そう思わせるほど彼からの内容は冬耶を驚かせた。
どうやら穂高と宮岡の繋がりが馨にバレたらしい。いくら注意を払っていても、相手は馨だ。いずれバレるとは覚悟していたようで宮岡の文面は落ち着いてはいた。
それに、裏切り者の穂高を馨は変わらず秘書として傍に置き続け、宮岡にも特段危害を加えるつもりはないらしい。交流手段も断絶させられなかったことからも、馨がこの状況すら楽しんでいることが伝わってきた。やはり彼は常人の理解の範疇を超えた存在のようだ。
とにかく、馨の様子を見ながらではあるが、引き続き穂高はこちらに出来る限りの協力をしてくれるという。それには安堵したが、冬耶を動揺させた問題は別にあった。
一階から変わらず楽しげな声が聞こえていることを確認し、冬耶は葵の部屋へと移動する。クローゼットの中や、学習机の引き出し、そしてベッドの下を覗いてようやく目的のものを見つけ出した。
白く手触りのいい紙の包装の中には真新しい制服と、そして薄い緑色の封筒が入っていた。送り主の記載はないが、手紙の内容をみればまず間違いなく馨だと分かる。だから葵はこれを家族に見つからないよう隠し、黙っていたのだろう。
片時も葵の傍から離れない都古も当然この秘密を認識していたに違いない。葵の願いに忠実な姿勢は否定しないが、それが葵にとって本当にベストな選択かどうかを判断してほしいものだ。
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